〜〜〜遊星さんの心の部屋の内装は、【夢と現の狭間に見たもの】と同じ感じで進めております(※今回前後編です)〜〜〜






 遊星によって心の部屋って所に行けるようになったオレは、この半月の間それまで抱えていたもやもやが帳消しになる位、遊星といっぱい決闘した。



「スターダストで、ダイレクトアタック」
「んあー! 負けたー!!」

 心の部屋では決闘盤による決闘は出来ないらしくて、決闘はいつも卓上で行った。それでも遊星と向かい合って決闘が出来る事が嬉しくて、オレは寝る前には必ず遊星と決闘する位、この時間に夢中になった。







 遊星との決闘は、やっぱり楽しい。そしてオレに力を湧かせ、絶好調の戦績も引き寄せる。



「行け、パワー・ツール!! クラフティ・ブレイク!!」

 チームデュエルで、ファーストホイーラーとしての先手必勝率は、八割以上。時には一人で三人倒すことだって出来た。D・ホイールの運転技術もぐんぐん向上して、デッキの安定さ・いざという時の爆発力も格段に上がった。




『今のカーブは一拍早くても行ける』
『体が強張っている。大丈夫、お前はやれる』

 それも全部、決闘だけじゃなくて運転技術においても遊星という最強で最高なコーチが付いたおかげだ。今まで凄いDホイーラーにはたくさん当たってきたし戦ってきたけど、やっぱり真似したい、追いかけたいと思える技術を持っているのは、遊星とジャックだった。その内の一人が直々にコーチしてくれてるんだから、きっと上達の近道っていうのはこういう事を言うんだろう。遊星はお前が努力しているからだと言うけれど、この調子で頑張れば、いつか遊星にアクセルシンクロだって見せれるかもしれない。



『そう簡単にはいかないぞ』
「(分かってますー。でも夢を見るのは勝手でしょ?)」
『確かにそうだが……あまり色々と出来るようになられても、複雑だな』
「(オレ、いつか遊星やジャックみたいな決闘者になりたいんだ。だからその為には、色々出来なきゃいけない事、出来るようにならないと)」
『……』


 オレが遊星やジャックを目指している事を話す度、遊星は少しだけ寂しそうに、複雑な表情になる。オレ変な事言ってるかな? おかしな事は言ってないと思うんだけどな。



「(遊星?)」
『……何でもない。ほら、今日もデッキを編集するんだろう?』
「(あ、うん。遊星も付き合ってくれる?)」
『勿論だ。龍亞』


 関係ないけど、オレ遊星と話す為に頭の中での会話が凄く上手になったと思う。遊星とこんな関係になってから最初の二週間位はうっかり声に出しちゃって、龍可やチームメイトに凄く心配されちゃったもんね。慣れって凄いなと思う。









「龍亞」
「ん?」
「明日、休みだったよな」
「うん! 何かしたい事あるの?」

 心の部屋での決闘を終えてカードを片付けていると、遊星が予定を聞いてくる。たぶんネットデュエルをしたいんだろうな〜と予想していたら、遊星の希望はもうちょっと斜め上だった。



「パソコンのメンテナンスをしたい」
「……ど、どうやって?」
「最近バッテリーの性能が落ち始めたから、新しいものを調達して入れ換えるだけだ。……出来る事なら、あともう少し色々と見たいが」
「実際にメンテナンスするのはオレだもんね。バッテリーの交換って、簡単に出来るの?」
「ああ。隣で指示するから、その通りに動かせば問題ない」
「そっか。なら大丈夫。あでも、先に行きたい所行ってからでいい?」
「何か予定があったか」
「うん。指輪を受け取りに行くんだ」


 心の部屋にいる間、遊星はいつものようにオレの考えている事がお見通しにはならないらしい。遊星の心の部屋は薄暗いから、少し気恥ずかしくなって顔が赤くなっても、分かりにくくて良いなと思う。




「……指輪? そんなもの、いつ頼んで」
「こないだ、初めてこの部屋に来た時ぐらいかな。遊星、この部屋に来れるようになってから、自分の時間を持てる様になったでしょ? そん時に頼んだんだよ。色んなお店があって迷ったんだけど、やっと決めたんだ。で、その指輪が完成したらしいから、受け取りにね」
「……」
「遊星?」


 何故かそこで黙ってしまった遊星の顔は、やっぱり薄暗くてよく見えなかった。気恥ずかしさから来る熱をどうにか静めて、どうしたのって顔を覗きこんだら、何でもないって視線を逸らされた。変な遊星。……こういう、内心で考えた事が筒抜けにならないって久しぶりだから本当に嬉しい。




「遊星ー?」
「……指輪を受け取るなら、早めの方がいいな」
「え? うーんそうだね。早めに受け取りたいかな」
「……なら、明日のメンテナンスは別に」
「え? いやそれは別に構わないよ。受け取るだけだから時間掛かんないし、パソコンが壊れたらネットデュエルも出来なくなっちゃうしさ」
「……それなら、明日出掛ける前に、簡単にパソコンを開いて見たいんだが」
「開いて、見たい……お、お手柔らかにお願いします」
「大丈夫だ。無理は言わない。お前にも、パソコンにも」
「あ、あー言ったなっ!! オレだってディフォーマー使いなんだからその位ちょちょいのちょーいってやってみせてやるんだからなー!!」
「それは、関係無いと思うが」
「いーや大アリだね!! なんたって遊星のパソコンと工具を引き取ったのはオレなんだから。その位ちゃんと出来るようになってみせるよ!!」
「……それは、頼もしいな」




 その時遊星の視線が、部屋の薄暗さとは関係なく影を落とした気がした。……でも同時に心の部屋の照明もぐっと弱くなって暗くなったから、そのせいだろうと思った。




「遊星? ひょっとして眠いんじゃない?」
「……そうだな。そろそろ、寝るか」
「うん。じゃあ遊星、おやすみ〜」
「ああ。おやすみ、龍亞」




 よく考えたら、もう死んでいる遊星には眠たいも何もなかったかもしれない。眠たいからという気持ちで、心の部屋まで薄暗くなる事は無いかもしれない。


 今考え直せば、どうしてそう思ったのかって方が不思議な事だったかもしれないけど……少なくともその時オレはムキになってて、遊星の気持ちを深読みする余裕なんてまったく無かったし、そうしようとも思わなかったのは変えようのない事実で。






 そして、遊星におやすみと言って迎えた翌日。まずは遊星の指示で慎重にパソコンを解体し、必要な基盤だのパーツだのとバッテリーを確認して、十時頃に家を出た。


 注文していた指輪を受け取り、昼食を食べ、メンテナンスに必要なパーツを買い求めてジャンクショップを練り歩いて、さーじゃあ帰ってメンテナンスに取りかかろうかと帰路へ足を向けた矢先。




「バトル・テレポーテーションを発動! この効果で俺の場のパワーアップした強化人類サイコはお前に直接攻撃出来る!!」
「さぁバトルだ、まずは強化人類サイコで直接攻撃!!」

 突然決闘を挑まれた。そこまでなら、まだ普通だった。でも決闘を挑んできた相手はサイコデュエリストだった。で、今オレは実体化している強化人類サイコ(攻撃力2500)の直接攻撃と、その衝撃をもろに喰らって吹っ飛ばされ、壁に打ち付けられた。



『龍亞!』
「お前みたいな奴が○○様に勝つなんて、あっちゃならねぇ。つか理解出来ねぇ。なんでこの程度の実力で○○様に勝てたんだ。ああそうかお前イカサマしたんだなそうだなそうに決まってるでなきゃ○○様みたいな強い御方がお前みたいな奴に負ける訳がねぇもんなぁ!!」
『龍亞、しっかりしろ龍亞!!』


 焦っている遊星の声と、盲信に任せて溢れ続けるオレへの悪口が聞こえる。どうやら、決闘を挑んできたサイコデュエリストはオレが負かした事のあるプロの熱烈なファンだったらしい。その人をオレみたいな新人に倒された事がどうしても納得出来なかったから、こうして自分の手で何度もオレをぼこぼこにして、その人の敗北をオレがイカサマしたからという嘘で正当化させようとしているみたいだ。


 この世界で勝ち続ければ、逆恨みは甘んじて受け止めなければならない。けどさすがに、これは言いがかりにも程がある。オレはちゃんと正々堂々戦って勝利したのに、こんな事をすれば、自分が好きなその人の決闘をも汚す事になると気付いていない。




「これで終わりじゃねぇ!! メンタル・スフィア・デーモンで、D・ラジオンを攻撃!!」
「っ、っ、く、罠発動、ディフォーム。ラジオンを、守備表示に」
「無駄だ! カウンター罠、ブローニング・パワー!! 強化人類サイコをリリースし、ディフォームの発動を無効にして破壊する。よってラジオンは攻撃表示のままバトルを行う!!」


 ああだけど、それを言わないといけないのに、オレの口も体もいう事を聞かない。何度も吹っ飛ばされて傷付きすぎた体がこれ以上動かさせない様にする為、視界をどんどん暗く重くしていく。遊星の声すら遠くで響いている様に聞きとりづらい……




「これで止めだ。アーマード・サイキッカーの直接攻撃で、二度と○○様に盾付く事が出来ない体にしてやらぁああっ!!」


 あぁ、相手が最後の攻撃してくる。オレの場には、D・スクランブルがあるのに。これを発動出来れば、まだ決闘を続けられるのに。こんな奴に絶対、負けたくないのに。個人的な理由も含めば、サイキックモンスター使い、特にメンタル・スフィア・デーモンを使うサイコデュエリストには、本当に絶対負けたくないのに。






 駄目だ、もう、意識が――――




「罠発動、D・スクランブル」

 ――え?




 オレの意識が途切れる寸前……オレは誰かにぎゅっと抱きしめられて、相手モンスターの攻撃がオレの体へ直撃するよりも早くそのまま引っ張られて、浮遊感に包まれた。あれだけ重くていう事を聞かなかった体も、全身を駆け巡っていた痛みからも解放された意識が、





 最後に聞いた、その声は、




「なんだ? さっきと空気が変わって」
「黙れ。よくも」


 よくも、龍亞を――――!!



 生まれてからずっと聞いている筈なのにまるで今初めて聞いた様な錯覚も覚える……【オレ】を傷付けた事で溢れ出る憤りと、【オレ】を傷付けた相手に対しての嫌悪を隠す事無く尖らせた、どこまでも冷たく激しいオレの声(・・・・)だった。



=====

(メンタル・スフィア・デーモンには【サイキック族モンスター1体を対象にする魔法・罠カードが発動した時、1000ライフポイントを払いその発動を無効にし破壊する】効果がありますが、
ディフォームの効果対象は【攻撃モンスター(この場合メンタル・スフィア・デーモン=サイキック族)と攻撃対象になったモンスター(ラジオン)】の2体で複数になる為、メンタル・スフィア・デーモンの効果でディフォームの効果を無効にする事は出来ません>遊戯王Wikiを見ながら)

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