〜〜〜王様と表君みたいに心の部屋もあったりします〜〜〜







 オンラインデュエルにyuuseiの名前で登録してから半年、時間を見つけては遊星の決闘を観戦する日々を続けている。


 後ろで遊星が言う通りにマウスを動かしてカードを展開するのはオレだけど、それでも心境的には観戦する、が正しい気がする。遊星の傍で遊星の思いのまま動くカード達……ここからどういう展開になるのか、プロという事すらうっかり忘れながら、一観客としてただただ楽しくてドキドキしているのだから。



『手札からジャンク・シンクロンを召喚。効果によって、墓地からアンノウン・シンクロンを特殊召喚』
『レベル1のレベル・スティーラー二体に、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング……』
「(集いし星が新たな力を呼び起こす、だっけ)」
『! ふっ……光さす道となれ! シンクロ召喚! いでよ、ジャンク・ウォリアー!』


 遊星に自分の体を取り憑く先として提供しているからか、こういう時遊星がどんな事を思っているかは分からなくても、嬉しいとか物足りないっていう【どんな事を感じているか】はオレも感じ取れるようになった。

 ネットのデュエルは実際のデュエルと違い、演出が無い分展開が早い。だからシンクロ口上なんて言ったりしない。でも遊星が言いたいなら言ってもいいと思う。時間が無い時は省略してもらうけど、聞くのはオレだけだし、オレもきっと、同じ事してるだろうし。




 呼び出したジャンク・ウォリアーは、当然攻撃表示で場に出す。

 これで場には、レベル・スティーラーの効果でレベル6まで下がったジャンク・デストロイヤーとレベル5のジャンク・ウォリアー、レベル1のアンノウン・シンクロン。そして二枚の伏せカード。でも遊星は、まだバトルフェイズには移行しない。



『ジャンク・デストロイヤーのレベルをさらに1つ落とし、再び墓地のレベル・スティーラーを特殊召喚』

『レベル1のレベル・スティーラーに、レベル1のアンノウン・シンクロンをチューニング。集いし願いが新たな速度の地平へ誘う。光さす道となれ! シンクロ召喚! 希望の力、シンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロン!』




 シンクロ召喚したフォーミュラ・シンクロンを守備表示で出し、効果で一枚ドローする。お互いの伏せカードによっては……ひょっとするとこのターンで決着がつくかも。



『バトルフェイズ』
『ジャンク・デストロイヤーで、伏せているモンスターを攻撃。デストロイ・ナックル!』
 とここで、相手の伏せカードミラーフォースが発動する。遊星がオレの名を呼ぶ。分かってる。オレもちょっと、期待してたよ。



『スターライト・ロードを発動。ミラーフォースの効果を無効にして破壊し、エクストラデッキからスターダストを特殊召喚!』
 たとえデータ上とはいえ、スターダストが出てくる時遊星は懐かしそうに目を細める。……でも懐かしむのは一瞬だけ。今はまだ、決闘の途中なんだから。



 スターダストを呼び出した事で攻撃が遡り、ジャンク・デストロイヤーが再び壁モンスターを攻撃して今度は撃破する。
 破壊したのはダンディ・ライオン。二体の綿毛トークンが守備表示で特殊召喚される。綿毛トークンの守備力は0。もしフォーミュラ・シンクロンを攻撃表示で出していればスターダストの直接攻撃で倒せたけど……



「(これもすべて、計算通りだったりするの?)」
『それはどうかな』

 オレの問いかけを不敵な笑みで流して、遊星はトークンの破壊を指示する。ジャンク・ウォリアーとスターダストが綿毛トークンを散らし……ガラ空きになったフィールドを駆け抜ける為の、最後の伏せカードを発動させる。




「(『罠発動、緊急同調』)」


――集いし夢の結晶が新たな進化の扉を開く。光さす道となれ! アクセルシンクロ!!





「(『生来せよ、シューティング・スター・ドラゴン!!』)」





 遊星と見事にハモっちゃってる事を、どこか嬉しく思いながら。召喚されたシューティング・スターの直接攻撃によって相手のライフを0にする。


 今回のデュエルも見事yuuseiの勝利で飾れた事に、オレは詰めていた息を大きく吐き出した。





「(ごめん。今日はここまででいい?)」
『ああ。お疲れ、龍亞』
「(決闘してたのは遊星なのにね。遊星の決闘は、やっぱり色々考えさせられちゃうなー)」


 決闘後のチャット画面に表示された相手からのメッセージも、無視してそのままログアウトする。yuuseiの正体は絶対に秘密だから、下手にチャットに応じてぼろを出す訳にはいかない。時々知り合いっぽい名前のアカウントを見かけるけど、ネット世界はいくらでもなりすます事が可能だから言われるがまま信用するのは超危険なんだって遊星が教えてくれた。


 それにもし本物なら、決闘してみれば分かる筈だからそれでいいって。遊星は決闘する相手を選り好みしないし最近はyuuseiに決闘の申し込みが凄く増えてきたから、【彼等】に当たる事は結構後回しになっちゃうけど……でも、別にいいよね。遊星と決闘出来るんだから。



「(やっぱり、ずるいや)」
『龍亞? あ、すまない。お前の都合を後回しに』
「(はしてないから安心してよ。そうじゃなくて、もっと個人的な……いつも言わなくても勝手に読んじゃうんだから、言わなくても分かってよ)」



 何だか面倒くさい女の子みたいな事を言ってるのがちょっと恥ずかしいけど……でもちょっと位、いじけてもいいでしょ?

 だって今この世界に生きている決闘者達は、パソコンとアカウントIDさえ持っていればyuuseiと……遊星と決闘出来る。でも、オレだけは……遊星の代わりにyuuseiの戦術を動かしていくオレだけは、遊星と決闘出来ないんだから。




 頬を膨らませて、子供の時の様にいじけたのを前面に押し出してみれば、オレの気持ちを読み取ったんだろう遊星はあのそのと慌て始める。それが何だかおかしくていじけ続けられずに吹き出すと、今度はじと目で、けどどこかほっとした様な顔を浮かべた。生前でさえ滅多にそんな顔見なかったのに……こうして二人っきりの時間が増えたからかな。不謹慎だとは分かってるけど……遊星が生きてた時よりもずっと、遊星を近くに感じる気がする。



「(ごめんね。別に遊星の決闘を見たくない訳じゃないし、困らせたい訳でもないんだよ?)」
『いや……お前が俺と戦いたいと思ってくれているのは、とても嬉しい』
「(きっといつか、その方法も見つけられると思うんだ。だからそれまでは遊星やジャックの決闘を参考にして、もっと強くなるよ)」


 テレビの向こう側で、シングルで今尚全勝無敗で君臨し続ける絶対王者。遊星の葬式の日に再会して以来会えていないし、チームとシングルではそもそも戦う機会自体が少ないから本気の決闘をする事も難しい。第一今のオレじゃあ、ジャックにも遊星にも全然敵わない。遊星の決闘をまた見れるようになって、よりそう思う。



『……。お前は、俺やジャックの真似をせずとも、充分よく出来ている』
「(充分じゃ駄目だよ。充分じゃ足りない。そんなんじゃ、遊星やジャックには追いつけない。もっともっと、頑張らないと)」
『分かった。すまない、そんな顔をさせたかったわけじゃないんだ』


 そんな顔って? と聞いても、遊星は教えてくれなかった。結構近づいて来てるとはいえ、遊星の考えてる事が時々分からないのは、やっぱり不公平だと思う。




『龍亞……決闘、するか』
「(もう一戦?)」
『いいや。……俺と、お前とで』
「え?」



 決闘? 誰が? オレと……遊星、が?


 ……でも、それって。




「(遊星。オレは他の皆と同じ様に遊星と決闘したい。お互いの手札をオープンにして決闘したくないよ)」

 今まで、一度も考えなかった訳じゃない。オレと遊星が決闘する方法。ネットの向こうの人達みたいに、互角に戦える方法を。


 けれど考えれば考える程、それはほぼ不可能に近いんだって事しか分からなかった。囲碁とか将棋なら、まだどうにか出来ただろうけど。決闘者一人一人が時に同じ、けどほぼ違うカードを選んで作り上げたデッキで戦うデュエルモンスターズで幽霊と互角に戦う為には、昔決闘したミシェルとかダークシグナーの様に遊星が実体を持つか、あるいはオレも遊星と同じ幽霊になって幽霊同士で決闘する位しかない。



『……お前が死ぬ未来なんて、絶対に起こさせない』

 うんまぁ、昔一回本当に死んだ事あるけど……これは遊星には内緒にしておきたいな。ジャックや龍可も、詳しく話してないみたいでよかった。



 まぁそれはさておき、不思議な力無しでオレが遊星と決闘するとなると、一番現実的なのは遊星の手札をオープンにして、ネットデュエルの様に遊星の指示通り遊星のカードを動かして決闘する方法だろう。でもそんな方法で決闘をしても、とてもじゃないけど互角とは言えない。少しでもフェアにする為にオレの手札もオープンにするとしても、お互いに手札が完全に見えてる状態で決闘する訳だから本来の決闘と程遠い事には変わりない。戦術的にそういう手法があるのは知ってるしそれを否定したい訳じゃない。でも、オレがしたい遊星との決闘はそれじゃない。



『分かっている。俺だって、お前との決闘に手を抜くつもりはない』
「(だったら)」
『俺も見つけたんだ』
「(見つけた?)」
『ああ。龍亞、お前が俺に再び決闘が出来る場所を提供してくれた様に、俺もお前と、ネットの向こうの人達と同じ様に決闘出来る方法を』
「……ほ、本当に」


 遊星の話に、オレは胸の中へ信じられない気持ちがいっぱいに広がっていくのを感じた。遊星が嘘を言ってるんじゃないかって疑ってるんじゃない。いつかきっとって夢見てたその方法が、思いがけず実現してしまったから受け入れるのに時間が掛かっているだけ。だからすぐに、今度はその気持ちが嬉しさで、期待で膨らんで胸が苦しくなる。



『……信じてくれるんだな』
「(当たり前でしょ! それでそれで、どうやって決闘するの?)」
『……さっきお前が考えていた事に、近い事をするんだが』
「(ん? 考えてたって、どれの事?)」
『この後出掛ける予定はなかったな』
「(んん? うん。ないけど)」
『じゃあ、ソファーに座るか、ベッドに横になってくれ』
「(え? それがどう、関係あるの?)」
『大アリなんだ。いいから早く』
「(わ、分かった)」


 ソファーかベッド、と言われたから、ちょっと迷いつつもオレはソファーの方へと腰を下ろす。プロのD・ホイーラーになって、初めて貰った給料で買ったお気に入りのソファー。座イスみたいに低いローソファーは横になって寝れる位広いし座り心地も良いからよくデッキを弄ってる最中に寝ちゃって龍可に怒られちゃって……って、余計な事まで思い出しちゃった。




『龍亞』

 今は決闘決闘と首を振るオレの隣に、半透明状の遊星が座り、オレの手に自分の手を重ねる。なんとなくそうしてほしそうだったからすり抜けるのも構わず片手を浮かせると、遊星もまた手を上げて掴み直した。



『目を、閉じてくれ』
「(目を? 本当に何をするの?)」
『説明するのは難しいから、まず体験してもらう。だから、頼む』
「(……分かった)」


 オレの手を持ってそう話す遊星の目が本当に真剣だったから、オレは素直に目を閉じた。するとすぐに、体が不思議な感覚に包まれる。肌に触れる空気が少し冷たくなり、ほんの少しの浮遊感の後、突然浮かせていた手を誰かに掴まれて――






「っ、え?」

「龍亞」


 反射的に目を開けると、そこには遊星がいて、オレの手を掴んでいた。目を閉じる前と同じ……いや、違う。【オレの手を掴み直したふり】ではなく【本当にオレの手を掴んでいる】という絶対的な違いで……あり得ない事が、起こっている……!!






「……なんで」
「龍亞」


 オレの手を優しく包む様に握っている遊星の手は、ちょっと硬くて筋張ってて、生きてた頃と同じ温もりがあって。……幽霊とはいえずっと一緒にいてくれたけど、もう、遠い昔の事の様になってた……まだオレが少年だった時頭を撫でてくれた、あの時の遊星と同じ手で。



「っ……」
「龍亞?」

 どうしてこんな事が出来るのか分からないまま遊星の顔を見て……遊星の向こうに何も見えない事に気付いて、また思考がまとまらなくなる。おそるおそる、掴まれていない方の手を、伸ばして、その胸板に手を置く。手を、置けた。服の下からでも分かる、固い、筋肉が手を受け止める。



「っ!」
「る」

 たまらず、遊星に抱きついた。しがみ付くように、強く。ネオ童実野シティに住んでた頃よりずっと身長も伸びて、それでもまだ超える事は叶わなくて、顔が遊星の首筋へとぶつかる。ぶつかれる体が、ある。まるで遊星が生き返って、オレの前に立っているみたいに。



「……ぅ」

 あの時、遊星の葬式の日には色々ありすぎて、一つも零れなかった涙が目頭に溜まる。

 オレが酷く混乱しているのが、分かったのか、予想していたのか、遊星は何も言わずオレの背中に手を回して、抱き返してくれた。しっかりした固い腕。でも温かい。でも優しい。でも、でも……





「龍亞、っ」
「……」

 抱きしめられて、より密着した胸も温かくて。でも心臓の音は、聞こえなかった。遊星の腕が、オレをぎゅっと、


―†††―

(さっき以上に強く引き寄せた。)

ついに遊戯王伝統の心の部屋へ龍亞が入りました……ちなみに連れ込まれたのは遊星さんの心の部屋です。そして目頭に溜まった涙は、流れることなく引っ込みました。
この後滅茶苦茶セッ……決闘出来るといいね。あ、健全な決闘ね←

←03  5D'sNOVELTOP  05→







inserted by FC2 system