〜〜〜幽霊として龍亞に取り憑く事でこの世への残留を可能にした遊星。龍亞の協力を得つつ、やりたかった事を叶えていく事にしました〜〜〜








 デュエルモンスターズの歴史の中で絶対に欠かす事も避ける事も出来ない伝説の決闘者、武藤遊戯。名もなきファラオって人の魂を宿してて、本人もファラオも凄い実力の持ち主で、じゃあ遊星の魂と一緒にいるオレも、ひょっとしていつか決闘王になれる素質があるって事なのかな?



『遊戯さんは本当に凄い実力を持っていた。あの世に行けば、また決闘出来るだろうか』
「……成仏、する気になったの?」
『! いいや。まだお前と、離れたくない』
「……何それ」


 遊星。悪いけどオレ、冗談にならない冗談に返せるだけの機転はまだ無いよ。……あと、最近龍可の視線が凄く痛いです。物凄く気を遣われてるような視線をビシビシ感じます。




「龍亞。最近何もない所に話しかけてるけど、疲れてるんじゃない?」
「え、いいぃやそんな事無いよ!! そ、それにほら、龍可も結構、精霊達と話してたりするじゃない? そんな感じだよ!」
「話しているのが精霊なら、私にだって会話も見る事も出来るでしょ」
「そ、それは、そうだね。あ、じゃあ、ちょ、ちょっと色々あって疲れたのかも。今日は無理しない様にするよ」
「……」
「……きょ、今日は、ゆっくりするよ」
「……龍亞。何かあったら、無理せず相談してね。私はいつだって、龍亞の味方よ」
「……、ありがとう。龍可」



 『何恥ずかしい事言ってんのさ〜』とか、茶化す事も出来たんだけど。龍可の顔が真剣すぎて言い出せる空気じゃなかったから素直に礼を言う事にした。オレがありがとうって言った事で龍可の顔がより心配そうに曇ったけど、気付かないふりで押し通した。




『龍可には、言っても良いと思うが』
「(遊星の姿も声も分からないなら、言っても悲しませちゃうだけだよ。でもやっぱり、龍可にも見えなかったか。精霊達には見えるのかな?)」
『俺には龍可の後ろや傍にカードの精霊が見えるが、向こうと目が合った事は一度も無いな』
「(……それって、例えばクリボンとかが龍可と何話してるかとかも、分かったりするの?)」
『いいや。エンシェント・フェアリーの様に人間の言葉を話せる精霊ならもしくは、と思ったが……幽霊になっても、そこまでは精霊に近づかなかったらしい』


 てことは、遊星を見る事が出来るのも声を聞く事が出来るのも、仲間の中では本当にオレだけということか。あと声に出さずとも遊星に頭の中の声がお見通しにされるのもオレだけと。……今後遊星と話す時には、無意識にでも頭の中だけで喋れるようにしないといけないって事か。



『そういう事になるな』
「(もうまたオレの心の声読む……あ、そういえば龍可、遊星のデッキにも精霊が宿ってるって言ってたっけ。もしかしたら『龍亞』彼等なら……)」
『……俺のデッキはクロウが引き取ってくれたし、スターダストはジャックが今尚輝かせてくれている。それだけで充分だ』
「……」



 少し間を置いて話した遊星は、ひょっとするとまだ、決闘をしたかったのかなと思った。一度そう考えれば、それはとても当然な事だとも気付く。オレよりもずっと、ずっと決闘に夢中になり、そして決闘からも愛されていた遊星。不慮の事故で命を失いさえしなければ、きっと今でも絶対に決闘を続けていたに違いない。








 そうだとすれば、幽霊となった彼に、オレがしてあげられる事って、協力出来る事って何があるんだろう。








「……遊星。デッキの調整、手伝ってよ」


 何を言えばいいか分からなくなったから、オレはカードを入れてるカバンとホルダーを傍に置いて、床にデッキを広げる事にした。最近買ったパックにいいカードが入ってたから、それを入れるかどうかを考えたかった。

 決闘王の武藤遊戯も、名もなきファラオと一緒に意見を交わしながらデッキを作り上げていったらしい。彼等の真似事をするつもりではないけど……いつか遊星が言った、【決闘がオレ達を導いてくれる】という言葉が、今でもオレの中に息づいている気がしたからそう言った。




『分かった』

 遊星が悲しむなら、また今度でもよかった。けれど床にあぐらを掻いて座るオレの横に半透明状の遊星もしゃがんで、気になっていた一枚のカードを指差した。



『最近買ったカードの中では、これが一番合いそうだな』
「(やっぱりそう思う? オレもこのカード、コンボを組みやすそうだなって思ってた)」
『ああ。それとこっちのSpも、パワー・ツールとのコンボに使えそうだ』
「(うん。新発売されたばっかなんだって。ライディングデュエルだと装備魔法を使えないから、パワー・ツールの強化は絶対必要だもんね。けど今のデッキも結構バランスいいから、何を抜けばいいかなって迷ってるんだ)」
『じゃあ、こんなコンボを狙ってみるのはどうだ』
「(何々?)」


 新しいカードを見ながら思い付いたコンボを語る遊星の目は、子供の様にキラキラしている。やっぱり遊星は決闘が好きなんだなって、一緒に夢中になりながら彼の熱意にのめり込んでいく。




 なんとかして、遊星にもう一度決闘をさせてあげたいな。


 デッキの調整をしながら、遊星の横顔を見ながら、オレはずっと、その方法も考え続けた。











 そして、遊星の葬式から三ヶ月が経った頃。




「(ねぇ遊星、決闘しない?)」

 オレは遊星へ、今まで言い出せなかった禁句の誘いを掛けた。




『龍亞……気持ちは嬉しいが、俺が決闘をする事はもう』
「(出来るよ! これ見て遊星!!)」


 突然の決闘の誘いに、最初虚を突かれた様な顔をして、徐々に怪訝そうに、落ち込むように眉間へしわを寄せる遊星の返事をぶった切って、オレは起動させたパソコンを指差す。画面に横線が走っては消える遊星手作りのパソコンが表示しているのは、




『オンライン、デュエル?』

「(そう! 色々調べてみたんだけどさ、ここのサイトが一番カードのデータもルールも最新のものがしっかり更新されてるんだ。あと普通の決闘と比べるとまだSpとかの導入が遅いけど、ライディングデュエルも出来るんだって!)」



 遊星のデッキはクロウが、そしてスターダストはジャックが持っている。同じカードを集めてデッキを作り直しても、そのカード達が遊星の為に120%の力で応えるには時間を要するだろう。第一今ジャックの元にいるスターダストは世界に一枚しかないカード。……現実にある紙のカードで、遊星のデッキの完全再現は不可能と言わざるを得ない。


 でもオンラインデュエルの世界なら、スターダストだけじゃなく世界に一枚しかないというシグナーの竜も、アクセルシンクロでしか呼べないシューティング・スター・ドラゴンやその為に必要なフォーミュラ・シンクロンですらすべてデータとして組み込まれている。WRGPの優勝チームである遊星の決闘を自分も真似してみたい、参考にしたいというユーザーの願いに業者が応えて、今再び遊星にチャンスを繋げる橋を架けた。




「(あ、けど決闘出来るのはオレが忙しくない時だけになっちゃうから、あんまりは時間取れないんだけ)ど、わっ!」
『龍亞、っ!!』

 決闘の展開を考えるのは遊星でも、実際にその通りにマウスを操作するのはオレ。だから遊星が決闘をしている間はオレも他に何も出来なくなるから、申し訳ないけどあくまでオレの予定優先になる所は変わらない。


 と伝えようとしたら、最後まで聞く事無く遊星にぎゅっと抱きしめられ……ると思ったけどそのまますかっと通り過ぎて行っちゃった。半透明とはいえ最近遊星が幽霊だった事をうっかり忘れそうになってるから、本当に慣れって怖い。あと通り過ぎて後ろのパソコンと壁に突っ込んでった遊星は、多少ショックを受けたのか冷静になりつつ戻って来た。でも画面からサダコみたいに出て来るのは止めてほしい。悪気はないんだろうけど遊星怖い。





「(えっと、じゃあ早速アカウント登録しよっか)」
『ああ。名前はどうする』
「(そりゃあ遊星の決闘用なんだから、決まってるじゃない)」

 オレはそう笑って、ログインIDの欄にhudouyuuseiと


『龍亞。ふはhじゃなくてfだ』
「……」

 ……fudouyuuseiと打ち込む。そのままパスワードは遊星に決めてもらい、性別は男、メールアドレスはこのパソコンのアドレスを入れて、最後にゲーム上で表示される名前の欄にはyuuseiと入力した。漢字の遊星と迷ったけど、遊星が世界中の人々と決闘するならこっちがいいだろうと言ったからそうする事にした。



「じゃあこれで登録っと……よし。名前の重複もないみたい。登録完了したよ」
『あとはデッキの構築だな』
「(うん。一応初心者用に構築されたデッキもあるみたいだけど……遊星には必要ないよね)」
『ああ。自分のデッキで決闘する』
「(だよね。じゃあ編集画面に入って、と)」


 デッキの編集画面に入り、既に構築されたデッキを空にしてから、遊星が指示するまま懐かしいカード達を選んで移していく。




「(よし、じゃあ次はエクストラデッキだね)」
『龍亞』
「(ん?)」
『ありがとう』



 ありがとう、龍亞。


 いきなり、しかも噛みしめるように二回も言われて、マウスを握っていた手がビクッと震えて違うカードを入れてしまった。




「(あ、ちょ、ど、どうしたのさ急に)」
『急じゃない。……さっき言い損なった分だけじゃない。俺がこの世で、まだこうして決闘と繋がっていられるのは……また決闘を通じて他の人達と繋がれるのは、お前がいてくれて、俺の声を聞いてくれて、力を貸してくれるからだ。だから』
「(〜〜〜っ! ほ、ほ、本当にどうしたのさ、い、今更)」
『龍亞』


 恥ずかしくて仕方なくて、オレは真っ赤になった顔を誤魔化す様に背けて脳内の会話も中断する。気付いてないんだろうけど……もしオレが女の子ならぐらっと来てたかもしれない位、今オレを見ている遊星の顔はイケメンだった。カッコいいイケメンじゃなくて、こう、優しげというか……とにかくイケメンだった。恥ずかしいから絶対に読まれたくないけどそうとしか言いようがない。



 そんな顔をしたまま、その顔に浮かべている気持ちごとありのままに褒められて、素直に受け取って喜べる程オレは子供でもなくなってるんだからね。オレだって一応その、せ、成長してるんだからね!?




『大人に成長しているのと、俺の言葉で照れるのはまた別だと思うが』
「(あーもうちょっと黙ってて!! ほらエクストラ、エクストラデッキの編集続けるよ!! まずはスターダストだよね!?)」

 プライバシーが死んでいるオレの感情をすぐに読んでコメントする遊星の方を見ないままさっき間違えて入れたカードを戻して、記憶の中で遊星が使っていたシンクロモンスターを次々入れていく。すべての準備が終わった頃には、日付が変わってしまっていた。



「ふぁあ……やっと終わった。じゃあ今から決闘しよっか」
『いや、今日はもういい』
「え?」
『明日、午前からプラクティスがあるんだろう? そろそろ寝ないと明日に響く』
「(……いいの?)」
『その代わり、明日の晩には決闘させてくれ』
「(勿論だよ。じゃあ今日はこれで終わりってことで)」
『ああ』


 ログアウトしたパソコンの電源を落とし、ベッドに潜りこんで部屋の電気を消す。本当はオレも久しぶりの遊星の決闘にワクワクしてたけど、予定もあるし、睡魔には勝てない。



『ありがとう。龍亞』
 おやすみ。遊星。


 明日の晩が、楽しみだなぁ。


―†††―
(補足あとがき(言い訳ともry))
幽霊である遊星を視認し会話する事が出来るのは龍亞だけである、というのがそれ星の特徴です。それは龍可と仲の良い精霊達でも例外にはならず、龍可も【龍亞が見ている先(遊星がいる場所)の空気が少し違う】程度の事は分かるかもしれませんが、視認も会話する事も出来ません。

龍亞は遊星のパソコンを引き取ったはいいけどタイピング遅いといいな。両手人差し指使いか、そこからちょっと上達した程度だとおいしいです。

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