遊星が死んだという訃報を受けて飛び乗った飛行機の中で、眠りについたオレは夢の中で遊星と再会した。






「龍亞」

 遊星。懐かしいなぁ久しぶりだね。仕事忙しい? 日本で元気にしてる? 日本にもオレの活躍届いてる? 日本では今、ブラックジョークが流行っているの?




 頭の中で流暢に溢れ出る言葉は、その一切が口をついて出る事は無かった。

分かっていた。オレも、遊星も、ここがオレの夢の中だと分かっていたから何も言えなかった。





「……龍亞」

 くしゃりと、遊星の顔が歪む。それは泣きそうな顔でもあり、嬉しそうに笑みを浮かべた顔。悔やむ顔でもあり、安心した様な顔でもあった。





「他の皆には、会えなかった。お前にだけ、こうして会えた」

 その言葉の意味を考えるのが怖かった。



「せめて最期に一言伝えたいと思っていたら、叶ったようだ」
「やだよオレ、遊星と離れたくない!!」


 その言葉の意味を考える前に叫んでた。




「龍亞……」

 遊星が困った様にオレを見る。いや揺れている、揺れていると思った。だから言葉を止められなかった。




「……俺も、まだやりたい事がたくさんあった。だが」
「なら、一緒にいてよ。オレがそのやりたい事手伝うから、お願いだからオレと一緒にいて!! 逝かないで!!」


 その言葉を、その願いを叶える事が不可能な事位気付いていた筈なのに。夢の中でまで……最後まで遊星を、困らせてしまうと分かっていた筈なのに。



「龍亞……ありがとう」
「! ゆっ」


 遊星は嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑っていた。

そしてそのまま、動く事の出来ないオレの前ですーっと空気に溶ける様に薄れて透けて、




「待ってる」
「……どこでだよ!!」



 独りきりになった白い世界の中で、涙で濡れた酷いオレの声だけが響き渡った。






 ……。

 こんな夢を見たら、普通結局夢だったって思うじゃない?
 まさか正夢というか、実は夢枕に立たれてたとかさ、思わないでしょ? 


 しかもそのまま取り憑かれて、火葬場で人骨模型も真っ青な立派な白骨体と化した遊星(脱け殻)を見てやはり牛乳は骨を丈夫にするんだなとか一人納得して頷いてる遊星(幽霊)に対してさ、オレ一体何すればいい訳!? 黙秘権使っていいなら迷い無く使うよオレのターン手札から黙秘権を発動!!



『どうした? 龍亞』

 ……思ってたのと違う!!








〜〜〜再会した後、遊星は龍亞の心を器にして彼の中に宿りました。要するに、取り憑きました〜〜〜









 一人暮らしだった遊星の家の片付けをオレ達でする事になった。普段から片付けられていた為掃除もスムーズに済み、大きな家具はゾラの息子のレオがそのまま大切に使うという事になった。


 遊星は結婚もしていなかったから財産分与でもめる事もなかった。ただ彼が大事にしていた遺品は、皆で分け合って持っていようという話になった。


 ここで言う皆っていうのは、オレ達チーム5D’sと、育ての親であるマーサのおばちゃんの六人だ。牛尾さんや鬼柳さんもどうかって話になったけど、二人は静かに首を振った。自分達がそれを見る度にしみったれた顔をするのを、きっと遊星は望まないだろうと考えたかららしい。

 その代わり、鬼柳さんは骨壷に入れなかった遊星の遺灰を少し持って帰っていた。今は遺骨や遺灰を砂時計やアクセサリーに加工する事も出来るらしいけど、今彼が生きている地に撒く事でさらなる町の平和と発展を誓うのかもしれない、とクロウが言っていた。どちらにせよそれが彼の遊星に対する供養になるなら、オレ達が止めていい事じゃないし、止める理由もない。



 だからオレ達は六人で、生前から遊星と密接に繋がっていた遺品を分け合う事にした。







 まず、遊星のD・ホイールとヘルメットはマーサのおばちゃんが引き取った。オレ達は皆この後飛行機に乗って帰らないといけなかったから、誰も反対はしなかった。



 次に、デッキ。決闘者にとって、第二の魂。
 これはクロウが預かる事にした。引き取る、とはどうしても言えなかったらしいクロウは、【預かる】と言った。ちょっとおかしいけど、それをツッコむ人はいなかった。



 ジャックは、スターダスト・ドラゴンを選んだ。つまりクロウが預かった遊星のデッキから、スターダストだけを抜き取った。

 デッキが遊星の第二の魂なら、スターダストは遊星の相棒。カードを別々にする事にクロウはいい顔をしなかったけど……結局折れて、スターダストだけはジャックが持つ事になった。ジャックはオレ達の中で一番世界を飛び回るから、遺品の保管も難しい。なら使う事のない遊星の遺品に埃を被せるよりは、相棒のスターダストを戦場で戦わせてやる事こそ、自分に出来る最大の供養になる。

 わざわざ言わせるなと、唇を噛みしめるジャックの声が少しだけ震えていたのは、誰も気付かないふりをした。



 アキ姉ちゃんは遊星が普段から着ていたジャケットやベルト、ライダースーツを引き取った。本当はアキ姉ちゃんもデッキを【預かりたかった】に違いない。でも

「私よりずっと昔から遊星と仲間だったクロウとジャックの方が、遊星のカードを持っていた方がいいと思う」
 と言って遊星の服を抱きしめながら泣いてたから、それ以上オレ達に言える事は無かった。



 龍可は、遊星の決闘盤を【預かった】。龍可は、自分は最後で良いからって、オレとアキ姉ちゃんに先に選ぶ様言った。そしてアキ姉ちゃんが服を選びオレが決闘盤を辞退したから、そのまま残っていた決闘盤を【預かる】事にした。オレが決闘盤を選ばなかった事を気にしていたみたいだけど、オレはまだ龍可と一緒に住んでいるからねと言ったら、一応納得してくれたみたいだった。




 そして最後に、オレは遊星の愛用していた工具セット一式と、遊星手作りのパソコンを引き取った。


 オレが決闘盤じゃなくてこれを引き取りたがった事を皆不思議がったけど……さすがに【本人】が望んでいたからですとは言えないから、自分で調整出来る様にする為って事にした。




「(ていうか本当にこれで良かったの?)」
『ああ。お前のD・ホイールが故障した時、これがあればすぐに直せるからな』
「(……いや別に、向こうで新調して集めてもいいんじゃ)」
『……それはそうなんだが』


 あとついでに、本人の幽霊も引き取ってるというか、取り憑かれてるからね。幽霊とはいえ遊星本人を引き取ってるからね。……まぁその引き換えに、オレの内心的な意味でのプライバシーが全部死んだ事もよく分かった。



『……すまない』
「(謝らないでよ。こうなる様望んだのはオレもなんだしさ)」
『お前の夢に入り込めたのも奇跡の様だったんだ。……皆にも試したが、お前以外、上手く行かなかった』
「(……じゃあ本当に奇跡が起きたのかもね。オレ、そういう素質があったとか知らなかったしさ)」
『ああ。お前が俺を受け入れてくれたから、俺はまだここにいられる。感謝してもし足りない』
「(……ゆ、遊星って、死んでから凄くおしゃべりになったよね)」



 ていうか、超ストレートになった? 聞いてて凄く、くすぐったいっていうより、恥ずかしくなってきた……


 赤くなった顔を見られない様に手で隠したオレを、泣いてると思ったのか皆何も言わず肩なり頭なりを優しく叩いてくれた。ごめん違うんだ。違うけど、ありがとう。




 そしてオレは遊星の幽霊と一緒に、ネオ童実野シティを後にし自分達が住む国へと帰る事にした。いいのかなと迷ったけど、オレもプロとしての仕事がある以上は当然だと遊星が言ってくれたので、素直に甘える事にした。


 これからどんな毎日を送る事になるんだろう。とりあえず言えるとすれば、昨日までとは絶対に違う毎日になるんだろうなという事だけだった。



―†††―
(補足あとがき(言い訳ともいう))
龍亞はまったく憑依出来ない人でも無いというのは公式(※TF5)で証明されてるので、あながち無茶な設定でも無いと思うんですよね。ね!!(必死)
鬼柳に対する龍亞の呼び方を悩みましたが(ワンポでは普通に鬼柳って呼んでるけどアニメでは接点がほぼ無い為)、大人になってるんだしという事で普通に鬼柳さんに。

そして龍亞はクロウに遺骨の加工が出来るという話を聞いて、鬼柳同様骨壷に入らなかった遊星の遺骨を少し持ち帰っています。彼等だけでなくマーサやゾラも持ち帰っていたので、特に気にする人はいませんでした。

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