クリスマス。
 それは恋人達や子供のいる家庭にとって、一大イベントの一つ。

 ……らしい。





家庭教師とハッピーラブレッスン☆





 遊星のクリスマスは、基本、一人だ。

 実の親は海外に行っていて一人暮らし。そこに時々友人達がパーティーに誘ったり、手作りケーキと共にやってくるに一晩付き合ったりなどがあるから、いつもという訳ではない。

 だがどうやら、今年は一人で迎えそうだ。


『マイダチ 遊星きゅんへv
 用事が入っちまってボクちん今日はお家にいられなくなっちゃいました。
 明日の晩には帰ってると思うから、そんとき一緒にケーキ食おうぜ!
 あ、ちなみにこのケーキは今日食べちゃって大丈夫だぞ。ちゃんと明日用のケーキ作ってっから明日唐揚げ作って楽しみにしとけよな☆

 てなわけでMerry Xmas!!』


「…………」
 朝、起きて携帯を見てみたら一通のメールが入っていた。
 その内容に従いドアを開けてみると、水色の四角い箱が置かれていて。
 その上に乗っけられていたクリスマスカードの内容を読み、遊星は一つため息を吐いた。だがこのため息は、クリスマスを一人で過ごすことになって残念、の類ではない。彼のため息はこのクリスマスカードの送り主に対する、様々な、ツッコミのため息。

「……俺はお前ほど甘党じゃないぞ」
 名前もちゃんと書いていたけど、そんなもの見なくたって文面ですぐ分かる。この文面から察するに、出かける前に家の前に置いていったのだろう。いくら外が寒いとはいえ、遊星がいつ起きるのかも分からないのに生ものを外に放置して行っちゃうなんて……よく言えば、大胆なことだ。しかもなんだこの全体的におふざけが散りばめられている文章は。マイダチとか新しい言葉を作るなボクちんって何だボクちんってそしてさりげなく唐揚げを要求するな。……そんな色々な意味のこもったため息を吐いて、遊星は箱をその場で開けて持ち上げてみる。万が一腹をすかせた猫なんかに食べられていないかチェックしておこうと思った為だ。


「……、……」
 遊星は無言で部屋へと戻り、台所のスペースに箱を置く。そして今度は中のケーキを取り出し、自分の目が錯覚を起こしてないことを理解する。


「……俺はお前ほど、甘党じゃない」
 箱から取り出された15センチのホールケーキを前に、遊星は先程と同じコメントを口にする。自分がチョコレート好きなのを覚えていたのか、口に入れたらとろりと蕩けそうな艶のある黒々としたザッハー・トルテ。きっと送ってきたなら一人で食べきり次の日のケーキも笑顔で受け付けられるだろうが、遊星には少々荷が重い。というか、も一人暮らしなのに金は大丈夫なのだろうか。ひょっとして後日請求されたりしないだろうか。そこは少々心配でもある。

「……まぁ、なにも今日食べきらなくてはならないという訳でもないか」
 まぁ、とりあえず、ケーキを作ってくれたという所は感謝すべきなのだ。今年はクロウもジャックも鬼柳も用事が入っていると言っていたし、牛乳と一緒にゆっくりこれを食べるのもいいだろう。そう思ってケーキを冷蔵庫に仕舞おうとし……ふと、気付く。

「そういえば、昨日使いきっていたな」
 冷蔵庫に牛乳が一本もないのに気付いた遊星は、ケーキを仕舞った後机の上に置いていた広告やチラシを見に行く。……今日はマルソトが安いみたいだ。早目に行った方がいいだろうか、と考えていた遊星の腹が、ぐぅ、と短く鳴る。

「……まぁ、後でいいか」
 とりあえず今は朝ご飯を。そう考え、遊星はまた台所へと戻るのだった。




 その後牛乳を買いに行ったのは、昼の三時を回った頃となった。

「まだあってよかった」
 購入した牛乳が入ったバックを座席の下に入れ、遊星のDほ……バイクが住宅街の中を走っている。朝ご飯を食べた後次の授業……家庭教師として、龍亞に出す課題を作っていた為だ。

「……」
 龍亞は、楽しんでいるだろうか。オーナメントで飾られた家の前を通った時、ふと遊星の頭に彼の顔がよぎる。

『オレね! イブに友達とクリスマスパーティーやるんだよ!』
 でっかいケーキ作ってくれるんだって! すっげー楽しみ! そう、前の授業の時満面の笑みで話していた彼の頭の中に、自分の事は入っていないのだろう。恋人同士、なんて甘い響きの前に、龍亞は中学生だ。今はまだ、恋よりも友情の方を大事にした方がいい。中学で過ごす三年間は、後からはけして取り戻せない大事な時間なのだから。……ちょっともやつくのは、気のせいだ。うん。

「……、!」
「え?」
 もうすぐ家につくという時、遊星は何か聞こえた気がして辺りに耳をすませる。スピードを緩めるバイクのエンジン音が響く中、もう一度、その声が耳に届いた。



「せぃ……せんせー! ゆぅせーせんせー!」
「!」
 自分が住んでいるマンションの前で、こちらへ向けて満面の笑みで腕を振り回している龍亞を見つけた遊星は、びっくりしてブレーキのタイミングがずれ少し通り過ぎてしまう。せんせぇー!? とあちらもビックリした声をあげながら、小走りで駆け寄ってくる。

「ど……、どう、した?」
「どうしたって、それはこっちが聞きたいよ」
 無視されたかと思った。と頬を膨らませる龍亞に、ビックリしたからだとだけ返す遊星の動揺は、まだ収まっていないようだ。

「パーティー終わったから帰ってたんだけど、そん時先生のこと思い出してね。なんか、会いたくなったんだ」
 会いたくなったんだ。そう照れながら笑う龍亞は、今自分が爆弾を投下したことにきっと気付いていないのだと思う。動揺に揺れていた遊星の理性が、また凄まじい衝撃を受ける。

「家の前まで行ったけどいなかったみたいだから、残念って思ってたけど、やっぱラッキーだったみたい」
 メリークリスマスー! と挨拶したかったらしい龍亞は、今自分が爆弾を以下略。もし二人のどちらかがロマンチストだったなら、今のこの状況は極上の美酒を飲んだように堪らない酔いを味わえることだろう。


 クリスマスに、予定を入れていなかった恋人同士が、お互いの事を考えて偶然出会う。
 ロマンチストじゃなくても……素敵な事なんじゃないかと思う。

 そしてその偶然から会えた恋人を……引きとめたいと思うことは、全然おかしくない筈だ。


「そうだ。ケーキがあるんだが、よかったら食べていくか」
「え、本当!? 先生が作ったの? クリスマスパーティーするとか?」
「いや……今日は皆用事が入って……貰ったはいいんだが、俺一人じゃ食べきれない大きさなんだ。パーティーで食べたのがチョコケーキなら被ることになるが」
「チョコケーキ? うわーすっごく食べたい! さっきはね、丸じゃなくて横に長ーいショートケーキ食べたんだよ! だから大丈夫!」
「そうか。なら、平気だな」

 グッジョブ、。ダチが作ったケーキでチャンスを釣った遊星が、こう思ったのかは分からないが。
 そのまま駐輪場まで乗って行けばいいのに、わざわざ降りて歩くのは、きっと少しでも長くこの時間を味わいたいと思っているから。龍亞が笑みを零しながら遊星の服の裾を掴むのに、遊星もまた、幸せを感じる。

「あぁ、そうだ」
「?」
 何か思い出した様子の遊星が、龍亞に視線を向け……龍亞だけを映して、柔らかい笑みを浮かべる。


「龍亞。メリークリスマス」
「……〜〜っ! め、め、メリー、クリスマス。遊星」
 “遊星”の顔で浮かべられた笑顔に見つめられるのが恥ずかしくなり、少し視線をずらす龍亞の顔は、ほんのりと、赤かったということだ。


―END―
最初の予定ではこの後
 二人での作ったザッハー・トルテを食べる→
 ブランデーに漬けられていたスポンジに龍亞が酔う→
 遊星は一口しか食べてないのに酔った龍亞が可愛くてむらっとくる→
 おいドゥギュンしろよのターン→
 オチにケーキの土台に使われていた紙に書かれたからのメッセージ『まだまだお子ちゃまの遊星きゅんはこれで我慢しやがれ☆』
というのを考えてたけど、ここはあえてほのぼので終わった方がいい気がしたのですぱっとカットしました。遊星先生はお酒という大人の階段は登ってないけど別のうわ何をするやめあqwせdrftgyふじこlp……

MerryChristmas!! ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!


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