大根がいっぱい送られてきた。すじ肉が安かった。卵が安かった。一気に冷え込んだ。寒い寒い、寒くないと言いながら走っていくショタを見た。

 これだけ理由が揃ったのに、作らないなんてありえない。



 ……最後のは、余計だと思うぞ。






家庭教師とハッピーラブレッスン?






 ある冬の日。そろそろ晩御飯の準備を始める頃。
 明日の龍亞への授業の準備をしていた遊星の元に一通の電話が掛かった。


「もしもし」
『もしもしー遊星? 俺俺ー! お前今日の晩御飯決まった〜?』
 お前はオレオレ詐欺か、とツッコみたくなるような第一声で、電話の相手が誰か一発で分かった。だがもうこんな細かい所まで気にしていてはキリがないので、遊星もそこは普通に応じる。

「いや、まだだが」
『そっかそっか! じゃあ今日お前の家で一緒に飯食べよーぜ! 俺持ってくからさ』
「……は?」
『ちょっと作りすぎちゃって、一人じゃ食べ切れねーんだよ。それと酒飲むからあんまいらねーけどご飯はお前持ちでよろしく〜☆』
「お、おい
『んじゃあな! 十分後には持ってくからさ』

 ブツ。ツー、ツー……言うだけ言って切れてしまった電話に、やれやれとため息を吐いた後、遊星は机の上に広げていた準備を片づけ、食器を用意し始めるのだった。




 十分後。インターフォンに呼ばれてドアを開けると、鍋掴みで両手鍋をしっかりと持ったが立っていた。遊星はその両手鍋の大きさを見て、呆れたように眉を顰める。


「……作りすぎだ」
「いやーお前が誘いに乗ってくれて本当に助かった」
 の家には、少し大き目の鍋がある。彼曰く彼のおばあちゃんから貰ったらしい金色のその鍋はおでんやカレーをたっぷり作るのに適したもので、今でもずっと使い続けている。ちなみに彼はその鍋をおでん鍋と言っているが、正式名称は“あるまいと”とかなんとか言うらしい。

 まぁとにかくそんな鍋でたっぷりと作られたおでんは、遊星の言う通り一人で食べるには……二人で食べるのにも作りすぎである。

「……そういえばこの間テレビで、七人兄弟がおでんの具を取り合っていたな」
「いや俺一人っ子だから。大人数家族の食事に慣れちゃって一人でもこうとかじゃないから。いやそりゃショタな弟が欲しいなぁと思ったことはあるけど」
「…………とにかく、あがれ」
「おう、お邪魔しまーす」
 反射的にしばこうとしたがそうすると鍋を落としてしまうだろうとギリギリ踏み止まり、遊星はを家へとあげるのだった。




 の作るおでんは、すじ肉と大根と卵がメインで、後はその時入れたくなった物を入れている。ある意味シンプルなおでんだ。
 スーパーとかでよく売られている、一袋に纏められた天ぷらはあまり入れない。彼曰く、俺は肉食系男子だからとのことだ。

「まぁ、それでいいんじゃないか」
「天ぷら入れると出汁が美味くなんだけど、やっぱすじ肉の方が好きなんだよな」
 ぐつぐつとカセットコンロの上で煮立つおでんから出した大根はよくしゅんでいて美味い。すじ肉も下処理がバッチリだし、卵もいい茶色だ。

「美味いな……少し、腹が立つ位」
「えぇー遊星きゅんたら嫉妬ー? ……嘘々冗談だってんな怖い目でこっち睨むなよ」
 おでん鍋から出てきたロールキャベツをはふはふしながら食べた後出てきたのお茶目に、これさえなければもっと素直に感心出来るのだが、と遊星ははんぺんとじゃがいもを出しつつ内心ため息を吐く。


 遊星と。どちらの料理が美味いかと言ったら、の方が美味いし、上手く作る。事実遊星が一人暮らしを始めた時に彼は何度も差し入れをしたし、こうやって作ったら美味くなるよ的なアドバイスも何度も行った。遊星が龍亞に「先生の料理おいしーいv」と言わせられるような腕前になった背景から、の存在は欠かせなかったし外せないのである。


「(……もし、いつかこいつと龍亞が出会う様な事があって、こいつの料理を食べるようなことがあったら)」
 遊星の脳裏に、が作った料理を食べた龍亞が満面の笑みを浮かべる映像が流れる。

『わーの料理すっごくおいしいv 遊星先生の作ったご飯よりおいしいー!』


「……本気で落ち込むかもしれない」
「おいおい何ガチ凹みしてんだよ。心配しなくてもお前の作った料理も美味いぞ? そりゃ俺の方が作るの上手だけど、前食わせてくれた飯も美味しかったぞ?」
「……一言余計だ」
「まぁそう言わず美味い物は美味いって食えばいいんだよ。ほら、トマトやるぞ」
「!? なんで普通のトマトを丸ごとおでんに入れている」
「あれお前見てない? この間ホップと麦のCMでやってたじゃん。あ、勿論皮は剥いてるから安心しろ」

 脳内妄想で勝手に落ち込む遊星を宥めつつトマトをつけてやった後、は鍋の火を止め、持参した梅酒をくいっと煽る。
 学年は同じだが遊星よりも誕生日の早い彼は一足先にお酒の飲める年になっていて、とんでもない、酒豪だ。彼は遊星が二十歳になったら一緒に飲みたいなーとか思っているみたいだが、市販の缶ビールやチューハイで酔った事のない彼と一緒に飲んだら、まず間違いなく遊星の体が大変なことになると思う。常に急性アルコール中毒という字が頭をかすると思う。



 一通り腹も膨れた所で、そういえば、とが話を切り出す。

「なぁ、デッキ編集付き合ってくれよ」
「デッキを?」
「一週間後にあるだろ? 町内デュエル大会。俺それにエントリーしたからデッキ強化しねーといけないんだよな」
「……どっちのデッキだ?」
「んー? 変なこと聞くな遊星きゅんは。俺がいつも使ってるデッキに決まってんだろ?」
「あぁ、あっちのデッキか。分かった付き合おう」
「え、マジ? じゃあ俺家からカード持ってくる!」

 も遊星や龍亞同様デュエリストだが、彼曰く自分で一からデッキを組み立てたり、強化するのは苦手らしい。どうしても好きなカードや使えるカードばかりを入れてバランスが偏るという初心者にありがちなミスが抜けないらしい。だから編集は遊星や満足組と一緒にやらないと改良にならない。余談だが、一回だけ彼自身の好みを120%注ぎこんだショタデッキを作ったらしいが、満足組の中ではタブー扱いになっている。


 嬉々として飲み終えた酒などを持ってカードを取りに行くの背中を見送りながら、

「……俺も参加するんだが」


 あいつが来るなら、龍亞を誘うのは止めておこうか。そう、少し残念そうにため息を吐いたのであった。


―END―
遊星先生ととおでんのお話。の色々な設定と、彼がデュエリストであることがやっと書けたお話。もうちょっと彼のお話が増えたら、別枠を作った方がいいかもしれない。
どうやらのデッキは二つあるらしい。そして遊星には悪いけど早く二人を会わせたい。中心のストーリー楽しいけど、が龍亞と会わないと遊龍亞イチャイチャがあまり挟めないから困りものです。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!

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