……そういえば昔小学校にあった鉛筆削りってこんなんだったよなぁ。

 目の前に広がる光景を見てのクロウの感想に、ジャックと鬼柳もあぁ確かにと思うのであった。






家庭教師とハッピーラブレッスン?





 ある日のこと。


「おろ? これは」
 がいつもの様に満足組のいる部室を訪れると、いつものメンバーが勢揃いしていた。いやそれはいつも通りなのであまり気にしない。が入ってきたことに気付いたクロウが、声を掛ける。

「よぉ、来たのか」
「よっすクロウ。……あれは修羅場?」
「修羅場……んーまぁ、あながち間違ってもねぇか」
 の言葉チョイスに違和感を抱きつつも、クロウはとりあえずの肯定を返す。二人の視線の先にいたのは……無表情でパソコンを高速で動かしていく遊星。その左手は彼が受けていない筈の教科書をパラパラパラパラと機械の様に捲っていて、目はせわしなく教科書とパソコンを行き来している。

 何故これをが修羅場と言い表したか。それは遊星……の隣で神に祈る様に両手をガッチリ合わせている鬼柳を見ればすぐに分かる。は極力音を立てない様に鬼柳に近づき、ぽん、とその肩に手を置く。

「なぁ鬼柳。サティスファクションズのリーダーなら、レポート位一人でやってみせろよ」
「だからサティスファクションズじゃねぇってチームサティスファクションだ……人には得手不得手ってもんがあってだな」
「鬼柳きゅんは夏休みの宿題をラス1でやってたタイプかな〜?」
「この俺をナメんじゃねーぞ。ラス1じゃなくてラス2で家族総出だ!」
「一つも自慢にならんな」
「まったくだ」
 クロウとジャックの呆れた声を鬼柳ドンマイ☆と彼の肩を叩くことで一段落させたは、さてと、と先程のやり取りに目も耳も傾けない遊星を観察するように見やる。

「なー鬼柳」
「なんだよ」
「遊星の奴、何分で終わらせるって言ってた? あるいは何分あれば出来るとか」
「へ? まぁ、一時間はいるぞとか言ってたような」
「へー結構大変なんだな……で、遊星があぁし始めて、どん位経った?」
「まだ十分くれーかなぁ」
「そっか……じゃあ俺、ちょっと行ってくるわ」
「? 来たばっかじゃねーか。何処行くんだよ」
「ん? 買い物買い物」

 すぐ帰って来るからさ。そう言ってはそそくさと部室を後にし、廊下に走る音を響かせた。



 すぐ帰ってくると言った通り、部室を出てから十五分もしない内に、ただいまーとが帰ってくる。手に持っている袋から、どうやら大学の近くにあるパン屋に行っていたようだ。

「何だよ。腹減ってたのか?」
「んーにゃ? これは俺の分じゃねーよ?」
「え? じゃあ俺等にか?」
「お前“等”じゃねーよ。……で、遊星の調子はどう?」
「どうって」
「だから……お」

 クロウに更に何かを聞こうとするの声が途切れる。パソコンと睨めっこしている遊星の眉間に、くっと皺が寄った。それを確認したは、すぐさま袋の中からあんぱんと牛乳パックを取り出し、器用にも片手でストローを差しながらもう片方の手であんぱんを平らに潰し始める。

「お、おい何やってんだよ」
「何って、あ、手はちゃんと洗ってるからバッチくないぞ☆」
「いやそうじゃなくて、お前は早食いする小学生か」
「こうしねーと上手く入んねーんだよ」
「入らねーって、何処に?」
「いいから見てろって。面白いもん見せてやっから」
 そう、平らに潰したあんぱんを縦に千切って五本のスティック状にした後、はそれらを牛乳パックと共に持って遊星の右隣に立ち、スティックあんぱんを持ってじっと何かを待っている。すると、



 むちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!!

「「「っ!?」」」


 がそのスティックあんぱんを遊星の口元に持って行ったと思ったら、あっという間に、手に持っていたあんぱんは遊星の口の中へと入っていった。そして少しの間を置いて同じ場所に牛乳のパックを持っていくと、じゅううっと一気に吸い上げる音がした。それを三回程繰り返すと遊星の眉間から皺が無くなり、もまだ中身が残ってるあんぱんの袋を持って音を立てない様に一歩引き、他のパンが入っている袋の前へと戻った。

「……ちょ、ぉい!? 何だ今の!?」
「何って、遊星があんぱん食って牛乳飲んだんだよ」
「そんなことは見れば分かる!」
「おもれーだろ? 遊星ってすげー集中するとエネルギー補給無しでぶっ通すからさー。俺が時々、こうやって食いもん補給してやってんの」
 あの状態の遊星に物食わせんの、今んとこ俺にしか出来ねーんだぜ? ちょっと自慢そうに言うに、満足組の面々は何だそれはと腑に落ちない顔をする。

「ただ物食わすだけだろ? それならオレ等にも出来るさ」
「そうか? ふふん。ならお前もやってみろよクロウ。ほらあんぱん以外にも買ってきたからさ」
 意地悪な笑みを浮かべるが、ほら、と袋の中から惣菜パンを出す。やってやるぜ! とクロウはその中からベーコンエピを取り、袋から出しつつ遊星の横へとスタンバる。


 だが。

「!? どうした、クロウ」
「え?」
 遊星の口が少し開いた瞬間ベーコンエピを横に持っていくと、驚いたように遊星が振り向いてしまう。訳が分からずこちらも驚いてしまっているクロウに、ありゃりゃーとの面白がった声が届く。


「ほらなークロウ。案外難しいんだぜ? この状態になった遊星の集中を途切らせずに(、、、、、、、、、)食わせるのって」
……」
「ほら遊星ちゃっちゃと終わらせちまえよ。パン代は鬼柳きゅんにしっかり請求しといてやっから」
「おい聞いてないぞ!」
「たかだかパン二、三個とパック二つなんていうランニングコストでレポートが完成するんなら安くついたと思えよりーだぁv だから遊星、ほら、手が止まってっぞ☆」
……次からはお前が全部やれ」
「分かってるって。お前のランニングコストは安くて助かるわぁv」
「……、……鬼柳。まだ掛かるから、もう少し待っていてくれ」
「あ、あぁ……頼むぜ遊星」
 に何か言おうとした遊星だったが、そのままパソコンへとまた意識を没頭させていった。そしてその状態を眺めていたが、な? と満足組に笑みを浮かべる。何が、な? だ何が。と思いつつも、彼等は何も言わなかった。

「お前のタイミングの取り方独特すぎて分かんねーよ」
「俺は遊星きゅんを観察して、何時でも出れる様スタンバってるだけだよ。じっと見てれば結構シグナル出してんだけど、誰も気付けねーからさ。代わりにやってくれる奴いねーんだわ」
 遊星の集中をまったく邪魔せず、途切れさせることなく食べさせるという芸当は、彼等二人の絆が成す技……ではなく、の予見にも似た鋭い勘と観察あってこその賜物なのだ。絆がまったくないとは言えないが、この場合はどっちかと言えば二人三脚より、わんこそばを早食いする人とわんこそばを入れる人の関係の方が近いと思う。の言葉を受けてじっくり遊星の様子を見てみても、

「お」
 とがベーコンエピと新しく開けたパックのココアを持っていくが、今遊星がシグナルを出したなんて全然分からなかった。ぶちぃ! とベーコンエピをワイルドに噛み千切った後ココアを飲ませるタイミングも完璧だ。つかこれ以上があっても分からない。そこに遊星の意識は感じられず、本当に機械の様に咀嚼し呑み込んでいく。ベーコンエピが終わって、唐揚げドッグや残ったあんぱんとかチョコホイップ入りロールくんを食べていく様なんて、冒頭でも呟いた通り、自動で削ってくれる鉛筆削りそのものだ。

 たぶん食べ方としては良くないんだろうなぁと思いつつも……手も視線も頭も完全にパソコンと教科書に向けている状態でそれが実現出来ているというのは、やっぱり、凄いんだと思う。


「お前って、結構尽くすタイプなんだな」
「やだよあんなムキムキに尽くすの。俺は可愛いショタを愛で尽くしたいの」

 買ってきたパンと飲み物をすべて遊星の胃袋に収めさせて帰って来たの返答に、これさえなければなぁとクロウはまたため息を吐くのであった。



―END―
遊星先生との息がぴったり合ってるお話(……違う)
のこの芸当は龍亞でも出来ない。龍亞が食べさせてくれるってのに遊星先生が意識しない筈がない。
クロウの言ってる通りは尽くすのがそんな苦じゃありません。その気になればナイスなフォローだって入れられる。けどお茶目なおふざけゴコロがかなりあるので中々……ねぇ?←  だからおふざけ無しで尽くすはとっても優しいしカッコいいよ。たぶん。遊星だって見たことないけど←

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!

5D'sNOVELTOP
inserted by FC2 system