(注※遊ラリ一番遊龍亞二番!という方は、閲覧の際にはご注意ください)




Nettle-Rash and Kiss




「遊星。ちょっと、いい?」

 そう言って、学校から帰ってきた龍可は神妙そうな顔をして遊星の元を訪れた。龍亞が一緒じゃない事が少々気になったが、相談事があるから一人で訪れたのかもしれない。そう結論付け、あまり気にせず遊星も聞き返す。


「どうした。なにか、悩み事か」
「悩みというか、頼み事。実は龍亞が、じんましんになっちゃって」
「じんましんに?」
「うん。あ、そんな大したことはないの。昨日の夜突然なっちゃったんだけど、薬を塗った所は朝には治ってたから。だけど」

 最初痒くて掻き始めたら全身に広がってしまったじんましん。家にあった痒み止めをとにかく塗ってその夜は何とか事なきを得たのだが。
 

「その……下の方をね、私には頼みたくないって」
「……あぁ」

 いくら双子といえど、男と女。全身に広がっているのでどうしても背中や尻など龍亞自身では塗りにくい所は出てくるが、それを龍可に塗ってくれとは、龍亞も結構言いにくいし、恥ずかしいのだろう。

「すっごく恥ずかしいからって、学校まで休んじゃって。痒み止めも使いきっちゃったから、今日新しいの買ったの。だから、その」
「分かった。俺が塗りに行こう」
「本当? ありがとう遊星」
「気にするな」

 じゃあ、夕ご飯食べてから来てね。 分かった。

 ほっとしたような龍可の表情を見ながら、遊星は少しだけ、複雑な表情を浮かべたのであった。



 そして、夜。龍可に案内され部屋へと入った遊星は、ベッドの上に鎮座する巨大な布団蓑虫と遭遇した。や、正体なんて言わずもがなではあるが。


「龍亞」
「……かゆい」
「あぁ。だから薬を塗りに来た」
「……龍可は?」
「もう寝るように言っておいた。俺も塗り終わったら、すぐに帰る」
「……」
「痒いんだろう? 掻くと、余計酷くなるぞ」
「……見られたくない」
「俺だって、他の奴に任せる気はない」


 龍可は、まだしも。他の男に龍亞の体へ薬を塗らせるなど、絶対にさせたくない。寛大さと表裏一体のように強い独占欲。……遊星さえも初めて知った、自らの激しい一面。


「……気持ち、悪がらないでね」
「当たり前だ」

 そんな遊星の一面が垣間見えたのか、本当に小さな声で釘を刺した後布団蓑が開かれ、龍亞が外へと出て来た。ぱっと見はいつもと同じ様に見えるが、手の甲や顎下の首筋などに、治りかけのものと、薬を塗った後出たのであろうじんましんが垣間見える。


「……痒かっただろう」
 肩とか、腰とか、龍可から先に渡されていたのであろう薬を塗った後のじんましんの周りが酷く赤い。きっと龍可が薬を買って帰ってくるまで、我慢出来なくなって掻いた為の結果。


「寒いか?」
「うぅん」
「じゃあ下も脱いで、後ろを向いていろ」
「……うん」

 下着一枚の格好で、赤い顔のまま背を向ける龍亞に、遊星は受け取った痒み止めを丁寧に塗っていく。首筋、背中、腰、太ももから脹脛まで、懇切、丁寧に。


「龍亞。ここはいいのか」
「ぇ、や、だって」
 下着越しにぽふ、ぽふっと尻を触れられ、リンゴ、いやもうトマト並に赤くなる龍亞に対し、どうした、と遊星は聞き返す。まったく天然なのか、それとも、


「痒いのなら、これもずらして貰わなくちゃな」
「そ、そ、それじゃオレ、すっぽんになっちゃうじゃんか」
「だが……“俺なら”、平気だろう?」
「っ!」
 相当の、策士なのか。確信犯のようにも見える笑みを口元へと浮かべる遊星に、



「ん……じゃあ、こぉして」
「……!」
 とにもかくにも“よく分からないけど今脱いだら危ないんじゃないか”というのは感じ取った龍亞は、下着の布を持ち上げて股の間へと入れて挟み込み、下着を脱がずして尻を見せた。
 そんな龍亞Tバック状態という映像に遊星の理性が予想外の衝撃をくらってぐらついたのは、もう、どうしようもないだろう。


「こ、これで、いい?」
「……あ、あぁ」

 本当に、天然とは恐ろしい。遊星の様子を窺うようにTバック状態にしたまま振り向く龍亞の可愛さと言ったら、、もうそのまま挿入れてしまいた……一瞬、遊星の理性が本能に負けかけ、全力で復旧作業を完了させた。先程よりも少々手を震わせながら、また丁寧に薬を塗っていく。


「ご、ごめんね。こんなの、あんま触りたくないでしょ」
「気にしてない。だから気にするな。二回目だしな」
「? に、二回目?」
「丁度この間ラリーも、じんましんになったんだ」


 この間。久しぶりにマーサ達の元を訪れたらそんなことになっていたものだから、ナーブと二人で同じように薬を塗っていった。だから今龍亞のこの状態を見ても、薬を塗る手が躊躇うことはない……や、勿論、初めてだったとしても、それは同じだろうが。


「そ、か……ラリーは、治ったの?」
「あぁ。お前と同じで、塗った場所から綺麗に治っていったそうだ」
「そっか。なら、よかった」
「あぁ。大事にならなくて安心した」

 ほっとするように話す遊星に、他意はないのだろう。それが分かるからこそ、遊星らしいと思うし、でも、ちょっともやつく。何でもやつくのかは、よく分からない。

 よかったと言う龍亞の目がほんの少し寂しそうに陰っていたことに、腰をかがめて薬を塗っていた遊星が気付くことは、なかったのだった。


「ん。後ろはこれで大丈夫だ」
「あの、ごめんね。こんな遅くに来てもらって」
「別に……」

 平気だ。そう言おうとした遊星が、ふと何を思ったのかズボンを履き始めた龍亞の正面へと回る。


「ど、どうしたの?」
「いや、顎の下にも出来ている。ここも塗っておこう」
「え、や、ここならオレも塗れるし」
「鏡では見えにくいだろう。いいからじっとしてろ」
「う、うん」

 上を向く龍亞の顎から首筋にかけて薬を塗り終わった後、



 ちゅっ

「ん、うぇ!?」
 まるでかすめ取るように、顔を持ち上げた遊星によって唇へとキスされた。突然のことにうろたえる龍亞に、

「これ位は、貰ってもいいだろう?」
 他の場所に出来ないのが残念だ。そう悪い笑みを浮かべる遊星に、


「……っ」
 龍亞は何故か押し黙り、視線を逸らす。

「龍亞?」
 恥ずかしがっている訳ではないその行動の意味が読み取れなくて、遊星は怪訝な声を掛ける。だがそのまま返答はなく、調子に乗りすぎたかと思い始めた時、



「……ラリーにも、同じことした?」
「!?」
「……ラリーは、こうしてくれたの?」


 頬を膨らませる訳でも、怒る訳でも、泣く訳でもなく。

 ただ少し震える声で、淡々と、寂しそうな目で見つめ返してきた。


 驚いたように瞠目する遊星に、は、と我に返った龍亞が慌てて手を振りだす。


「や、や、その、ごめんね。いきなりキスされたから、ビックリしちゃって、もぉ、訳分かんないよね!?」
「……龍亞」
「ほ、ほんとにごめんね。折角やってもらったのに変なこと言ってさ。ちょーしいいけど今の忘れ」
「龍亞」
「ゆっ」

 ガシリ、と手を握ると、けしてこちらへ目を合わせようとしない龍亞の後頭部を引き寄せ、そのまま唇を奪う。今度はかすめ取るような軽いものではなく、

「んっ、ん、……んんっ」
 恋人同士でしか行わないような、濃厚で激しいキス。奥に縮こまった舌を捕まえ吸い上げると、かくん、と力の抜けた膝が床へと着いてしまう。

「ん……、ぷぁ、はぁ」
 たっぷりと堪能され尽くした後解放された唇からは、まだ繋がりを求めるかのような銀の糸が伸びている。赤くなった顔で荒い呼吸を繰り返している龍亞に、遊星は言い聞かせるように、優しい声で名前を呼ぶ。


「俺のファーストキスの相手は、お前だ」
「!……うん」
「セカンドも、サードも、お前だ」
「……うん」
「今はもう、数を覚えてはいないが……全部、お前とだけだ」
「……ぅ、う」
「ラリーは勿論大事だし、大切な存在だ。だが」

 ベッドへと置かれてたパジャマの上を龍亞の肩に掛けた後頬を挟んで、


「こういう風に求めたのも、求めようと思ったのも、お前が初めてなんだ」

 視界を縛った。自分以外のものが見えないように。
 思考を、縛った。真摯な想いという言霊で、龍亞の心を甘美に、捉えて離さないように。


「ゆぅ、せ」
「……まだ、不安か?」
 頬をしっかり挟まれているから首が横に振れない龍亞は、口で返事をするしかない。だけど……もう一つ、確認しておきたいことがある。

「されたこと……口に、されたことも」
「ない」
 そっちはいまだに、ゼロだ。遊星の言葉は一つ一つまっすぐだから、龍亞もちゃんと、受け止められる。

「そっか……ありがとう」
 不安で潰されそうだった龍亞の瞳に、安堵の光が灯る。そして、



「! る」
 自らも遊星の頬を軽く手で挟み、そのまま引き寄せてキスをした。

 触れた、と分かる程度ですぐに離される軽いキス。少々呆気に取られている遊星に、



「……御礼は、奪うものじゃないでしょ?」
 遊星へのファーストキス……オレからの、ファーストキス。


「塗ってくれた、御礼」
 恥ずかしそうに照れくさそうに。遊星の手から逃れるように彼の肩へと旋毛を押し付け幸せそうな笑みを浮かべた龍亞に、



「……龍亞」
 もっと、欲しい。軽く、だが欲望に満ちたキスを旋毛へと落とす遊星もまた、幸せそうな笑みを浮かべていたのだった。


―END―
遊星はラリーの事が滅茶苦茶大事だし大好きだけど、龍亞に対する好きとはやはり種類が違うのです。おらは遊龍亞ファンなのでそれ闇で散々使った表現で例えるなら、ラリーには親愛、龍亞には恋愛なのです。龍亞サイドで当てはめるなら、龍可には親愛、遊星には恋愛。双子を見るのそれはそれは大好きだけど、やはり、イチャつかせるなら話は別です。そういう場合は龍可単品で愛でたいですゲヘヘヘ>おまわりさーん! ここに変態がー!

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!

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