オレってさ。じっとしておくのが凄く苦手なんだ。静かにしているのも、得意じゃない。龍可は龍亞らしいって言ってくれるけど、小学校の先生にはいーっつも、落ち着きがないって言われてた。

 だって苦手なんだ。しーんとしてるとさ、息が苦しくなるっていうの? 静かなのもいいけど、賑やかな方が楽しいに決まってるじゃん。

 けどね。そんなオレでも、静かで楽しいって時がちゃんとあったんだよ。





家庭教師とハッピーラブレッスン☆




「……ん」
 休日。シーツにくるまっていた龍亞の意識が覚醒する。ちゅんちゅんと鳴く鳥の音と日の光が朝が訪れたことを告げる部屋の中、まだぼんやりとしたまま目蓋を擦る。

「んー。ぁ、ジャージ」
 ナイロン独特の感触と冷たさを感じ取る。擦った目蓋を上げてみると、この間と同じように彼のジャージを着ていて……?

「……へ? わ、わわぁわあぎっ!」
 ジャージと一緒に視界へと飛び込んできた超至近距離の彼の顔。龍亞は驚き大慌てで離れようとしたのだが、突如腰に走った激痛によって再びベッドへと沈んでしまった。

「……あー。そっか」
 昨日、泊ったんだった。ぎゅ、とジャージを握りながら真っ赤な顔で呟く彼の眠気は、痛みと衝撃によってもう完全に吹っ飛んでしまったのであった。



 一昨日と、昨日と今日。この三日間は龍亞の学校で試験を終えてから訪れた三連休。その真ん中の日に龍亞は、彼……遊星の部屋に一泊することとなったのである。

 多分、おそらく、まだ誰にもバレてはいないが、遊星と龍亞は恋人同士である。しかも大人のBACを経験済みの年の差カップルだ。何故BACかというと彼等の行った順番がABCではなかった為である。

 一応お泊りに誘った側の遊星の言い分は“お泊り合宿”なので、ちゃんと勉強はした。だけど、二人は恋人同士。


 やっぱり、ヤることはちゃんとヤってるのである。


「オレ、また途中で寝ちゃったんだ」
 前回同様着せられている遊星のジャージを見つめながら、龍亞は昨日のことを思い出す。まだ片手で足りる程しか行われていない二人の情夜。しかも間に1クールなんて当たり前だから、すっごく久しぶりで。だからつい、遊星も半分暴走している勢いで龍亞のすべてをたっぷり堪能して―――

「―――っ!」
 わー! わーっと声にならない悲鳴を上げながら、バタバタと手を動かして昨日のことを吹き飛ばそうとする。だがすぐさま腰に走る痛みによって大人しくなる。……ほんのちょっと、憎らしげに彼の寝顔を見やる。



「もぉ、普段あんなにカッコいいのに、どうしてこういう時はがっつくのさ」
 聞かれたら恥ずかしいから小さな声でぶつぶつと愚痴る。そうしてそっと自身の腰に……昨夜彼と繋がった場所を、手で触れてみる。


「……あんな、余裕のない顔でさ」
 散々、気絶するまで愛されたそこは、まるでまだ遊星の熱を銜え込んでいるかのような錯覚を龍亞に与える。


「……」
 穏やかな寝息を立てて、まだ目覚めない遊星の寝顔は、昨日の求めてきた彼とは全く結びつかなくて。



「……ずるいよっ」
 普段の彼も余裕なくがっつく彼も今の穏やかに眠る彼も、そのすべてがカッコよくて、大好きだと思ってて。


 どれだけこの家庭教師は、自分の心を捉えれば気が済むのだろう。ずるい、ずるい。すっごくずるい。


「……」
 あぁ、でも。


「オレが遊星のものなら、遊星だって、オレのものだよね?」
 少なくとも、昨日自分を求めていた彼の顔を、知っているのは自分だけ。そう考えたら、何だろう。凄く胸が温かくなってくる。


「ねぇ、遊星」
 早く、起きて。そう唇で紡ごうとしたのを、何故か躊躇う。暫くしてもう一度彼の口が開き、



「まだ、起きないで」
 寝顔、もっといっぱい見ておこうっと。そう、悪戯っ子の顔で、笑って頬にキスをした。



 遊星が起きたら、とびっきりの笑顔でおはようって言おう。きっとビックリするだろうな。

 静かに彼の寝顔を眺めながら、龍亞は嬉しそうに笑っていたということだ。


―END―
ほのぼの。ほのぼの。エロじゃないよ。ほのぼの。 ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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