この小説は5D’sの遊龍亞のパラレル設定小説です。↓はこの小説を見るに当たっての幾つかの注意ごとです。

1.遊星と龍亞は逆家庭教師と生徒の関係
2.遊星は両親が仕事で外国を飛び回っているのでマンションにて一人暮らし中の大学二年生(十九歳)
3.龍亞はそろそろ受験勉強を考え始めなくてはならない中学二年生(十四歳)
4.二年前から龍亞が遊星の家へと通って勉強している(なので家庭教師)

5.何気に奥様眼鏡の世界設定である
6.パ ラ レ ル ! ! である。(閲覧する場合は)何が起こっても、ありえない!! と首を振るのではなく、自分は真似しねーぞ、と笑って流す事
7.パラレルなので本編とは一切関係ない……ということで


駄目な方はすぐブラウザバック!!


OKな方はどうぞvv









家庭教師とハッピーラブレッスン☆












 ぴーんぽーん。
 休日、四時過ぎ。とあるマンションの一つの扉の前にて、リュックサックを背負った一人の少年が呼び鈴を鳴らした。一度押して暫く待つのだが、中からはうんともすんとも反応が返らない。


「……?」
 ぴーんぽーん。もう一度押してみる。やっぱり反応は返ってこない。


「あっれー? ……まさかまた寝てんのかなぁ」
 四時過ぎなのに寝ているのではと思うのは、過去に同じことがあったから。その時は外で三十分程電話を鳴らしながらドアを叩き続けた。

「今日約束したのになぁ」
 そう思いながら少年は、とんとんとドアを叩く。トントン、トンドン、ドンドン。

「おーい! ……よし。しっつれいしまぁ〜す☆」
 大分ノックしても返事がないので、これは本格的に眠っている筈。なら別に入っても大丈夫だろう。そう考えた少年は、ポケットからこの間貰った合鍵を取り出しドアへと差し込もうとする。だが差し込まれる前に少年の頭へ、ぽん、と手が置かれる。うわぁ! と驚いた後勢いよく振り返ると



「よぉ、龍亞」
「あ、遊星先生!」
 スーパーの袋と紙袋を手に持つ部屋の主、遊星が、頭を撫でながら少年、龍亞へと微笑んだ。







 二人が知り合ったのは二年前。これから龍亞が中学の勉強に付いていけるのか不安になった親が遊星に家庭教師を持ちかけたのが始まりである。


『えぇ〜! オレだけ塾に行くの〜?!』
『龍亞。塾じゃなくて、家庭教師みたいなものよ。確かにいつも私に聞いてばっかじゃ、進歩しないかもね』
『うっ、うるさいなぁ! あ〜もう何でオレだけなんだよ〜』


 龍亞には双子の妹がいて大変頭が良かったが、いつもいつも聞いていたのでは妹の成績にも影響が出る。だから家庭教師に丁寧に教えてもらおう。それが両親の考え。当時高三だった遊星も丁度受験勉強を終えてアルバイトを探していたこともあり、快く引き受けた。



 授業は週二回。英語と数学を一時間ずつ。最初は教える相手の成績を知るということで、


『あのぅ、先生……オレ、本当に頭悪くってさぁ』
 引き出しの奥へ隠されていた過去の赤っ恥テストを見せることになった龍亞は、恥ずかしさで半分、いやかなり泣きたくなっていた。
 が、無言でテスト用紙に目を通した遊星は、


『大丈夫だ。……着目は間違っていないから、基礎を覚えなおせば十点は上がる』
『じゅ、十点?! そ、そんなに上がるの!?』
 龍亞にとって仰天することを言ってのけた。


『あぁ。例えばここの分数の問題だが』
 とテスト用紙と一緒に用意させていたノートを開き基本と基礎を丁寧に教えていく。すると時計の針が一周する頃には、過去に20点だったテストの問題を、50点正解することが出来たのだ。



 これは龍亞と、龍亞の両親にとって絶大な信頼効果を発揮した。


『す、凄いよ遊星! オレ、こんなにいっぱいテストの答えが分かったの初めてだよ!』
『こら龍亞! 先生に向って呼び捨てとは何なの!』
『あ! ご、ごめんゆ……じゃなくて先生』
『……別にいいさ。名前の方が呼びやすいなら、そう呼べばいい』
『ほ、本当? じゃあオレこれから遊星……先生。遊星先生って呼ぶ!』


 こんなやりとりもあったことから。最初(授業を受ける前)こそ不満と文句を言っていた龍亞であったが、一回目の授業(小学校の復習)を終えた時にはそんなものは夜空の彼方へと吹っ飛んでしまっていた。どうやら、彼にとって遊星の授業はとってもとっても分かりやすかったようである。


 ただ最初の授業は遊星が龍亞の家へと行ったが、二回目以降は龍亞が遊星の家へと向かう形になった。理由は色々あるのだろうが、詳しいことは不問にしておこう。




 こうして龍亞は遊星の元に通い続け、妹には及ばないものの学年で中の下と中を行き来する位の成績をキープし続けているのである(ちなみに小学生の時は、下の中位だったらしい)。


 そして今日は、龍亞と遊星にとって、とっても特別な日なのだ。



『こないだの試験の点は、どうだった?』
 あれはついこの間の授業のこと。嬉しいことを早く言いたいといううずうずを隠しきれない龍亞に、遊星が望みの言葉を掛けてやる。すると待ってました! とばかりに龍亞がカバンからクリアファイルを取り出し、


『オレ、今回すげー良かったんだよ!』
 と遊星に手渡す。遊星は龍亞に座るよう促した後受け取ったテストの結果に目を通していく。


『……ここの連立方程式、ちゃんとプラスに変換出来たな』
『オレね、試験始まるまでずーっとノート見てたんだよ?』
『こっちも、英単語のミスが少ない。過去形の変換も、ちゃんと出来ている』
『でしょでしょ〜?』


 一つ一つ確認して褒めた後、遊星はわざわざ三角折で隠されている点を捲る。普段の龍亞は、テストで65から70点台をうろうろしているのだが。



『……やったな、龍亞!』
『ね、ね! オレすっごく出来たんだよ!』

 英語は81。数学は80。龍亞にとっての最高得点が、叩き出されたのである。




 遊星に褒められたのがかなり嬉しかったのか、わーいと龍亞が机を越えて遊星の胸へと飛び込む。それにより遊星の心臓がドキ☆と跳ね上がるが、そんな動揺をおくびにも見せずそのままよしよしと頭を撫でる。と、龍亞は初めて会った時と全く変わらず素直に喜び、抱きしめる腕の力を強くする。


『これは、何かご褒美をやった方がいいかな』
『え、本当!? ごほーびくれるの!?』
『あぁ。あんまり高いものは買えないが、何か欲しいものはあるか』
『んー……いきなり言われても……あ、そうだ!』


 暫く悩んでいた龍亞が、いいこと思いついた! の顔で遊星に頼んだご褒美は……。




「悪かったな。来るまでに帰ろうとしていたんだが、買い物が長引いてしまって」
「だいじょーぶだよ! オレだって来たばっかだったもん!」
 部屋の中に入った龍亞は、多少散らかっているのを隅にどけている遊星に対して、ふかふか〜と楽しそうな顔でベッドに体を沈ませている。振り向いていなくてもそれが分かるのか、彼にはけして見えないように、遊星の口隅に苦笑が浮かぶ。まったく、なんて可愛らしいことなのだろう、と。



 遊星は、龍亞が好きである。どんな好きかと言われたら、体の反応も含めての好きである。
 最初はただ、本当にアルバイトの為だけに始めた家庭教師だった。紹介してくれた人の顔を立てる為というのもある。初めて龍亞と出会った時にナニカが芽生えていたのかは、遊星自身にも分からない。

 だけど、勉強を教える度。一生懸命考えているのを見る度。テストの結果に分かりやすいほど浮き沈みして、喜んだり謝ったりする彼を見る度。……正直に自分の感情を表すことが出来て、でも、他人の事も考えることの出来る龍亞の心に触れる度。

 少しずつ少しずつ、惹かれていった。それはもう、否定することなど出来ぬ程明確なる事実。



 勿論彼は龍亞にこの思いを伝えたりなんてしていないし、気づかれないように必死にひた向きに隠し続けている。初めて会った時から二年間。ずっと。

 だからそんな彼にとって、今日一日は



「オレ、一度でいいから先生の家に泊まってみたかったんだ〜」

 天国という名の、試練の一日であった。そう。龍亞が遊星にねだったご褒美とは、“遊星先生の家に一晩泊まりたい”というものだったのだ。






 他愛のない会話を楽しんだ後、そういえばと遊星が龍亞に尋ねる。


「そういえば、龍亞はどこの高校に行きたいんだ?」
 これから先受験対策の勉強も教えなければいけない遊星は、現時点で龍亞に希望があるのかを聞いておく必要がある。近くなら千絡(せんらく)高校とか自分が卒業した龍赤(たつのせき)高校とか、都蘭富とか歌留多とか起瀬路とか、最近出来た高校なら夢札高校も。頭の中で色々と学校の名前を挙げていた遊星だったが。



「うん。オレ、インジンサツ高校に入りたいんだ」
 龍亞の挙げた学校の名前には、一瞬だけ怪訝な顔をした。インジンサツ高校……どこかで聞いたことあるような。


「……すまん。“インジンサツ”とはどう書くんだ」
「えー遊星先生も知らないの? 神様のお札を引くって書いて、引神札って読むんだよ!」
 も、と言うことは他の人にも分からなかったということなのだろう。確かに最初聞いただけでは字が思い浮かばないかもしれない。


「神様のお札を引く、か」
 呟きながら遊星はベッドから机の前へと移動し、パソコンを起動させ“引神札高校”で検索する。すると意外にも多くの記事が見つかり、同時に引神札高校のホームページも見つかった。遊星達の住んでいる町から電車で二十分程度掛かる学校。過去の入試問題などを見ても、今の龍亞ならもう少し努力すれば大丈夫そうだ。


「校則は生徒の自主性と自己責任を重んじ必要最低限。自由服に単位制に卒論発表……まるで大学のようなシステムだな」
「ね? 面白いでしょ?」
「龍亞は、この自由な校風に惹かれたのか」
 確かに校則でガチガチに固められた進学校よりも、こちらの方が龍亞らしいし合っていると思う。でも実は、それだけではないのだ。



「確かに自由でいいなーって思ったんだけどね。……この高校は、オレの憧れの人が卒業した高校なんだよ」
 ……あぁ。成程。隣から画面を覗き込んでくる龍亞の話す理由に、遊星の胸がチクリと痛む。


「……【奇跡の製作者(ミラクル・プロデューサー)】のことか。ひょっとしてこの高校は」
「そう! オレ、憧れの【奇跡の製作者】と一緒の高校に通いたいんだ!」



 世界中の決闘者の頂点を賭けて戦う決闘チャンプトーナメント。その大会では昔、彗星のごとく現れた若手プロ決闘者がチャンピオンの座を掻っ攫うという仰天の出来事があった。
 それが【奇跡の製作者(ミラクル・プロデューサー)】。“奇跡を作り出す者”という名の通り、何度も何度も奇跡を起こして鮮やかな勝利を飾って来たE・HERO使い。


 キラキラとした目で希望を語る龍亞は、遊星にとってとても愛おしく映る。だが同時に彼の目をキラキラさせている理由を考えると、ちょっぴり不穏な感情が浮かんでくる。いくら相手がプロという違う世界で活躍している人だと思っても、やっぱり、そう思えてしまうのは龍亞のことを好きだからだろう。




 だがここで遊星に、一ついいアイディアが浮かぶ。頭のいい遊星は、浮かんだアイディアをより理想的に、現実的に脳内チューニングしていく。




「……龍亞は、【奇跡の製作者】が決闘チャンプになった時の決闘を見たか?」
「う〜んそれが見てないんだ。ネットで探してももう削除されてたりしてて」
「そうか」


 ニヤリ、と内心遊星は笑う。これでこのプランが、実行出来る。



「じゃあ龍亞。晩御飯の後にその決闘を見てみるか」
「え?!」
 遊星の衝撃発言に、勢いよく龍亞が食いつく。あまりに予想通り過ぎて愛おしさがより増す傍ら、悪戯心もむくむくと膨れ上がっていく。


「え、え?! 遊星先生、あの時の大会の」
「さすがにそれまでの試合はないが、決勝戦だけは日本でも中継で放送されていたんだ。そして偶然にもその日は休みだったから、リアルタイムで録ることが出来た」
「ほ、ほんとに? 本当に見れるの?!」
 夢にまで見た、決勝戦の決闘を? いくら遊星の言葉でもさすがに半信半疑のように……どきどきとした様子の龍亞に、パソコンを机からどかした遊星はただしと付ける。



「ただし晩御飯までは時間があるから、それまでは勉強しような」
「うぇ!? い、今から?」
「あぁ。約束しただろう?」
 お泊まりするのなら、丁度いいから勉強もやろう。それが、遊星が龍亞のおねだりに返した条件。龍亞もまぁ文句を言わなかったといえば嘘になるが、泊まれるならいっかと納得。着替えと一緒にいつもの勉強グッズも持ってきているのである。


「安心しろ。今日は今までの復習だから、難しいことはやらない」
「あ、そ、そーなの。そ、それならまぁ、何とか」

 いざとなったら遊星先生に質問すればいいもんね。そう考える龍亞の遊星への信頼は、絶対的で鉄壁。
 だがいつまでもその考えを持たせている訳にもいかない。決闘と同じで受験もテストも一人で戦わなければいけないのだから。

 その為に遊星はもっともな理由を付けて龍亞の信頼という名の甘えを断ち切らなければならない。家庭教師を任された者としてのプライドで、遊星は用意していたファイルからプリントを取り出し龍亞へと渡す。


「今からこのプリントの問題を解いていくんだ。ただ今までのドリルと問題集は見直してもいいが、俺への質問はなし」
「えぇーー!?」
「決勝戦を録画したDVDを探さなくてはいけない。それに晩御飯も作らなければ」
「あ、そっか。また遊星先生のご飯食べれるんだよね!」

 先生のご飯、おいしいよね。そう思い出しながら笑う龍亞に、遊星の胸が温かくなる。


「……リクエストは確か、ハンバーグとナポリタンだったな」
「うん! オレ大好きなんだv」
「そうか。じゃあもしプリントの点が良かったら、ハンバーグを特大にしてやろう」
「と、特大!?」
「そうだ。ただし悪かった場合は、どんどん小さくなっていくからな」
「えぇー!?」

 甘やかすことはいくらでも出来るけど、それでは意味がないから。軽いゲーム感覚にして頑張らせる。これが中々、上手くいく。



「四時五十八分……じゃあ五時から100分掛けて、プリントに取り掛かってもらおうか」
「あ。それなら何とか出来るかな……って、あれ。何で数学と英語の両方が」
「あぁ、言い忘れていたな。数学と英語の両方を100分の内に終わらせてくれ。確かテストも一教科その位だったろうし、二枚ずつだからそれ程多くもない」
「うっそー!」
「頑張れよ、龍亞。ほらもう五時だ」
「わ、わわわわわっ」


 遊星の言葉に、龍亞は慌ててリュックから勉強グッズ一揃えを出して取り掛かり始める。遊星はそんな龍亞を少しの間だけ見つめた後、机にデジタルの目覚まし時計を置いて台所へと移動していった。

 例え点が悪かったとしても……唇の隅を上げながら、遊星は料理の順序を考えていくのであった。





「ごちそーさまでした!」
 室内に、龍亞の明るい声が響き渡る。向かいに座り食べ終わった遊星が、おそまつさまと龍亞の言葉に返した後、自分もまたごちそうさまと手を合わせる。


「美味かったか」
「うん! すっごく美味しかった!」
 モチモチとしたスパゲッティと絶妙なケチャップ加減のナポリタンに……たくさんのミニハンバーグ。たくさん食べることの出来た龍亞の機嫌は、まさに絶好調である。


「風呂は沸かしてあるが、どうする。先に入るか」
「うーん……うん! 綺麗さっぱりしてから見たい」
「じゃあ、準備をしておけ。俺は食器を片づけておくから」
「え、い、いや御馳走になったからオレが洗うよ!」

 食器を持ち始める遊星に、慌てるように龍亞が声を掛ける。どうやら家でもこういうことはよくあるようだ。ほぉ、と感心したように遊星は息を漏らす。


「……じゃあ、布巾を渡すから机を拭いておいてくれ。その後風呂に入りに行くといい」
「わ、分かった!」
 手伝いを全くしないわけではないから、余計な気遣いもしなくていい。それなら、と納得した龍亞は、遊星が食器を持っていった後の机を綺麗に拭いていく。すると。



「……あれ? これって」
 先程は勉強していて気がつかなかったのだが。テレビボードに置かれているテレビの傍ら。いつもは見かけない黒いデッキケースが目に留まる。

「ひょっとして……」
 少しだけ迷った後デッキケースの蓋を開けてみると、中には予想通りDMカードの束が入っている。


「(やっぱりこれ、先生のデッキだ。てことは、遊星先生も決闘者なんだ!)」
 ただ観戦しているだけじゃなかったんだ。そう思うと、遊星が以前よりも身近に感じられて嬉しく思う。同時に、

「(遊星先生って、強いのかなぁ)」
 決闘者の一人として、遊星に純粋に興味が湧く。あれだけ頭がいいってことは決闘も強いのかなーとか、色々考える。



「龍亞? どうした」
「わわわわっ!」
 考え込んでいたからか、突然後ろから声を掛けられて、大げさに驚いてしまう。どうやら遊星が食器をすべて洗い終わるまで……終わっても、考えていたようである。不思議そうな顔をする遊星に、


「ね、ねぇ遊星先生! 先生って決闘強いの?」
 龍亞はストレートすぎる質問をぶつけた。突拍子のない質問に、遊星は暫しきょとんとした後彼の後ろを見て納得する。ちゃんと見つけたみたいだ、と。


「……まぁ、一通りのルールは知っている」
「それじゃあ強いのか弱いのか分からないよぉ」
「あまり人とすることが少ないからな……どうした?」
 期待に満ち溢れた目をしている龍亞に、遊星は答えを予想しつつも声を掛ける。


「じゃ、じゃあね! オレと決闘しよ? 遊星先生と決闘してみたい!」
 龍亞も、そこまで決闘をしているわけではない。いっつも龍可とか、親友の天兵とか身近な存在の人とくらいが精々で。だからこそ、遊星のデッキに、決闘に興味がある。やろうよやろうよー! と猛アピールする龍亞に、遊星はそうだな、とはにかむ。



「だが、決勝戦は見なくていいのか」
「う゛っ!」
 目の前の興味に気を取られて、すっかり【奇跡の製作者】のことを忘れていた龍亞。彼の中で、“遊星先生と決闘”と“【奇跡の製作者】の決勝戦”という二つの選択肢が天秤に乗ってぐらぐら揺れる。だが、



「け、決勝戦はほら、決闘の後でも見れるもんね!」
 まるで決闘のチェーン処理のように。新しく生まれた興味の方を優先する龍亞に、遊星は内心とてもサティスファ……満足の情を感じていた。






 龍亞が風呂から上がると、遊星は決闘の準備を整えていた。遊星が風呂に入っている間、龍亞は持ってきていたデッキの調整を行っていた。

「うっし! 先生には悪いけど、ぜーったい負けないからね!」
「……それは、こっちも同じだ」
「「決闘(!)」」

 こうして始まった遊星と龍亞の決闘。だったが、


「ジャンク・ウォリアーでガジェット・トレーラーを攻撃。装備しているジャンク・アタックの効果で、破壊したガジェット・トレーラーの攻撃力の半分のダメージを与える」
「うわ、負けちゃったぁ」
 サクサクと、それはもうサクサクと倒されてしまった龍亞は、悔しそうに涙を目へ溜めている。


「ゆ、遊星先生滅茶苦茶強いよ……強いなら強いってちゃんと言ってよぉ!」
「言っただろう。あまり人としたことがないって」
「うー! も、もう一回して!」
「……決勝戦はどうするんだ」
「もう一回ー!」

 ぶきゅ、と頬を膨らませて抗議する龍亞に、遊星は内心苦笑の嵐が絶えない。だがまぁ、悪い気がしないといえば、それは絶対的に嘘になる。
 だって今の龍亞は、ブラウン管の向こうのプロなんかじゃなく、自分だけを見て自分(との決闘)のことだけを考えているのだから。



「分かった。じゃあもう一回しよう」
「ほ、ほんと? ホントにしてくれるの?」
「あぁ。満足するまで付き合ってやる……と言いたいところだが」
「?」
「こういうのはどうだ。先に三回勝利した方が勝者となる、特殊マッチ決闘。これなら俺も後二回勝利しなければいけないから、たくさん決闘が出来る」
「え、そ、そんなにやってくれるの?」
「そうだ。そしてこの決闘でお前が一回でも勝ったら……」
 そこでわざと言葉を止める遊星に、龍亞はドキドキしながら尋ねる。

「か、勝ったら?」
「……そうだな。もう一回歯を磨くことになるが……決勝戦観戦用に、夜食を作ってやろう」
「ほ、ほんとう!?」
「あぁ。勝った回数によって、種類を増やしてやる」
「よ、よしっ! ……ん? じゃあ、遊星先生が勝ったら」


 二年間教わっていれば、さすがに遊星の【飴と鞭】教育のシステムも理解する。どうするの? と尋ねる龍亞に、



「……俺が先に三回勝ったら」
「う、うん」
 遊星の笑みが、とってもとっても深くなる。同時に龍亞は、嫌な予感を感じとる。……とってもとっても、嫌な予感。



「【奇跡の製作者】の決勝戦を見る前に、特別授業を行う」
「……げっ!」
 遊星の提案に、龍亞の顔がビキリと強張る。楽しみだな、とデッキをシャッフルし始める遊星は、本当に楽しそうなオーラを放っている。



「せ、せ、せめて先生が勝つ前にオレが一回でも勝てば、特別授業は免除にしてくれない?」
「随分と弱気だな。……まぁいいだろう。ほら、始めるぞ」
「も、もう! 先生何でそんなに嬉しそうなんだよぉお!」


 絶対免除させてやるっ! 条件が加わったことで余計やる気を見せる龍亞を見る遊星のオーラは、本当にどこまでも嬉しそうだった。



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裏設定色々

@龍亞の両親に遊星を家庭教師にと薦めたのはマーサ(龍亞の担任で遊星の知り合い)
A龍可は最初(担任や両親の勧めもあり)龍赤高校に行こうと思っていたが、龍亞と同じ引神札高校もいいかも、と思っている
B遊星は便利な機能が一通り揃っているマンションに住んでいる。彼の両親は一人暮らし用にと必要な家具も一通り揃えてから外国へと旅立った

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