この小説はブログから移したラブレッスン季節番外編です。七夕小説です。
パラレル大丈夫で読みたい方、どうぞ。







家庭教師とハッピーラブレッスン☆







 それは、七夕の前日のこと。

「先生。これ書いて!」
 授業が終わって、出されたアイスココアを飲んでいた龍亞がとりだした長方形に切られたおり紙を見て、遊星は首を傾げる。


「これは……」
「あれ先生忘れたの? 明日は七夕じゃん。だから願い事書いて!」
 結論だけ言ってくる龍亞の意図が、遊星にはいまいち伝わっていない。学校などの行事で笹を飾るのだろうか。だとしたら龍亞とは違う中学を卒業した自分が書くのは場違いなような。とまぁ色々と考えていたせいで長方形のおり紙……短冊を受け取った後も、動きが止まってしまっている。


 そんな遊星の不自然さに気がついたのだろう。龍亞は必死に言い訳をするように、あのね、と続ける。


「あ、あのさ。実は近所のおばさんがちっさく切った笹をくれてね。それで折角七夕するんだったら、願い事叶えてほしいじゃん。オレも龍可ももう書いたんだけど、二人だけだから凄く少なくてさ。だから先生にもって思って」

 だから、その。そこまで言って続きをどう話すか迷い始めた龍亞は、やっと真意が伝わった遊星にとってとんでもなく愛らしい生き物に映ったに違いない。


「……分かった。じゃあ少しだけ、待っててくれるか」
「う、うん」

 受け取った二枚の短冊を穴でも開けられそうな程真剣そのものの目で見つめる遊星。黙っている龍亞はその気迫に飲まれかけているのか、アイスココアの味がどんどん分からなくなっていくのを感じた。そして、


「……悪い。どうやら今すぐには決められそうにない」
 ふぅ、とため息をつきながら遊星が呟いたことでその気迫も薄れ、龍亞も詰まり始めていた息を吐きだした。どうやら遊星にとって願い事とは、簡単に出てくるものではないらしい。


「い、いいってそんな今すぐじゃなくても。じゃあオレ、明日の放課後寄るからさ。そんときに貰ったらいいし」
「いや、行き違いになる可能性がある。学校が終わったら、お前の家に寄ってポストに入れておこう」
「え、来てくれるの? じゃあオレ、家の前で待っとくよっ」


 遊星が龍亞の家に赴くなんて、最初の一回以降なかったこと。なんだかドキドキ、うきうきとしはじめた龍亞だったが、


「あんまり、早くから出てなくていいからな」
 明日は授業が六時まであるんだ。そのうきうきが丸分かりなのか苦笑を漏らす遊星を見て、顔を赤くしたのであった。




 そして次の日の夕方。据え膳のように蚊に血を吸われまくりながらもそわそわと家の前で待っていた龍亞は、曲がり角からこちらへ向かってくる赤いバイクを認識して声を弾ませる。


「先生!」
「本当に待ってたんだな」
 門の前に止まってヘルメットを外した遊星に駆け寄る龍亞の顔はとても明るい。きっと今遊星の目には、はち切れんばかりに振っている犬の尻尾も見えているに違いない。もしかしたら彼以外の人にも見えているかもしれないが、キリがないので詮索は止めておこう。


「遅くなった」
 バイクから降りて座席下に設けられたスペースから、市販の封筒を取り出して龍亞へと差し出す。この中に、短冊が入っているということらしい。用事を済ませたことで気も済んだのか、じゃあな、とまたバイクに跨ろうとする遊星を、龍亞が制する。


「ま、待って。せ、折角だからさ、一緒にご飯食べよーよ」
 今日、冷やし中華なんだよ。一人より、皆で食べた方が美味しいよ。必死に“一緒に食べたい”というアピールをする龍亞に、しかし遊星は、困ったように笑うだけだ。


「実は、この後急な用事が出来てしまってな。だからすぐに行かなくてはならないんだ」
「そ……、か」
 なら、仕方ないね。きゅ、と拳を握り締める龍亞は、理不尽な我儘をこねるという手を使わない。だって“遊星先生”としての彼は、自分だけのものじゃない。あんまり我儘を言いすぎると、織姫と彦星のように、離れ離れになってしまうかもしれない。



 一年に一回しか一緒にいれない彼らと、自分達は違う。

 一回位一緒にいたくてもダメな日があろうとも、また、何度でも一緒にいられる日があるのだから。


 そう龍亞が考えることが出来たのは、今日の授業と龍可によって織姫と彦星のお話を知ったからなのかもしれない。寂しくないと言ったら嘘になるけど、また、明後日には会えるのだから大丈夫。そう考えていた龍亞は、遊星がとても深い色を浮かべた目で自分を見ていることに気づかなかった。


 ……だからこそ、余計びっくりした。


「早く家に入った方がいい。たくさん蚊に喰われている」
「そーなんだよ。もう足とか腕とかすっごく痒くて」

 首も噛まれちゃってさー。虫除けしてくれば良かった。そういつも通りの笑顔を向ける龍亞の腕を、遊星はガシ、と掴む。そして軽く左右と、龍亞の家に気配を配った後、


「ひやっ!? ちょ、遊星せっ」
 ちゅ、と蚊に喰われた箇所に唇を当てて行く遊星に、驚きの声を上げようとした龍亞の口はぴた、と触れた遊星の人差し指によって閉じさせられる。


「今度からは、ちゃんと虫除けしておけ」
 一通り腕に唇を当て終えた遊星は、もう一度……先程以上に周囲に警戒した後、今度は龍亞の首筋に唇を寄せる。ぁ、と小さく短い悲鳴は、全力で、聞こえないふりをして。


「蚊に嫉妬するなんて、情けなさ過ぎて笑えてくる」
 首筋に顔を埋めたまま呟かれた“遊星”としての言葉に、龍亞の顔がトマトのように真っ赤になる。足は今度の授業でな、という冗談なのか本気なのかも分からない返事に、自分はどう返せばいいのだろうか。


「……じゃあな」
 また、次の授業で。呆然としている龍亞のアフターケアをまーったく考えずにバイクのエンジンを入れた遊星は、そのまま曲がり角から見えなくなってしまった。

「……も、もうもうもうっ、もぉーうっ!」
 遊星先生のバカァアアッ!! 遊星の姿が見えなくなった後ようやく我に返った龍亞は、恥ずかしさで真っ赤な顔をしたまんま、曲がり角に向かってありったけの声で叫んだのであった。





 夕食後。糸とハサミを脇に置いた龍亞は、遊星から受け取った封筒の中の短冊を取り出した。軒端にはたぁーーーくさんの願い事が書かれた短冊を吊るしている笹が吊るされていて、その殆どは龍亞の願い事である。


「先生、どんな願い事書いたんだろ」
 飾るんだし、見ても問題ないだろう。ぴら、と捲って見てみると、一枚目には“無病息災”、二枚目には“今までよりも分かりやすく教えられるよう努力する”と書いてあった。一枚目はともかく、二枚目のは願いではなく宣言、というか龍亞へのメッセージではないだろうか。


「もー先生ったら。これを書くのに一日も考えてたの?」
 でも先生らしいっちゃらしいなぁ。そう笑いながら笹へと吊るし終えると、空になった封筒を持って部屋へと帰ろうとする。だが、


「……あれ? まだなんか入ってる」
 封筒の中から感じる他の紙の存在に気付いた龍亞は、不思議そうに封筒を逆に振ってみる。すると側面にピタッと張り付いていたのか、三つ折りにたたまれた白い便箋が落ちてくる。その紙を拾い上げ開いた龍亞の体が硬直する。カキーン、と体も脳も凍ったようになった後、ぼひゅう、と湯気を出して解凍される。


 それは、“遊星先生”としてではなく、“遊星”としての願い事。


「……こんなの、どうやって飾るんだよ」
 拗ねたように愚痴を零す龍亞の顔は、トマトよりも真っ赤に染まっていた。




 龍亞の家の軒端にさらさらと揺れる笹の葉。その笹の葉の一番上に飾られた、三つ折りされ糊付けされた奇妙な短冊。

 その短冊に書かれているのは、一組の、恋人達の矛盾する願い。


“龍亞を泣かせるのは、俺だけでありますように”
“あんまり、遊星に泣かされたりしませんように”


 さて、一体どちらの願いが叶えられるのか。

 その答えはまさしく、天のみぞ知るということだ。


―END―
後日の授業後遊星先生は宣言通り龍亞の足に喰いつくと思う。だけどしっかり虫除けしてきた龍亞は必死にシャワー浴びさせてっ!(訳:足のスプレー落とすから!)と言うと思う。遊星先生は言っている意味はちゃんと分かるけど、それでも別のこと考えて変にドキドキしていると思う。
私の中の遊龍亞ってそんな感じだと思う。遊星先生は一応周りの目を気にしながら凄く恥ずかしいことすると思う。でもって龍亞は翔君の影響を受けまくってると思う。……これから頑張る。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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