むかしむかし、あるところに一人の王子様がおりました。

 その王子様はとってもやんちゃで、時々城を抜け出しては街の子供達と遊んでおりました。





「……こんなところにおられましたか。王子」
「あ、ユウセイ!」

 王子の名前は、ルア。そのルア専属の執事は、ユウセイ。王子が城を抜け出してから針が三周程経過して、もう夕暮れは西の森へと消えようとしている。広場で一人ブランコを揺らしていたルアが、トテトテと歩み寄るが、ハッ、と何か思い出したように、キョロキョロと周りを窺い始める。


「あ、あのさ。……他の人とかは?」
「俺一人ですよ。……教育係は、城で待っております」

 カンカンになって、という言葉をあえて呑み込んだ後、ユウセイはルアに楽しかったですかとだけ聞く。うん! と頷くルアの顔は、夕暮れの赤を差した満面の笑顔。お城の中にいたのでは輝ききれない、年相応の子供の顔。……この笑顔を失わせたくなくて、ついつい、針が三周するまで放っといてしまう自分は、とっても甘いんだと思う。



「では、そろそろ帰りましょう」
「うん」

 ユウセイの横を通って、ルアは城へと小走りで駆ける。がその途中、ピタ、と足を止めて振り返る。どうしたのだろうと考えていたら、すっと手を差し出される。


「ねぇユウセイ。手、繋ごう?」
「……いえ。そのお気持ちだけで、充分です」
「なにそれー。気持ちじゃ手は繋げないよ?」
「ですが、たかが使用人の俺が王子と手を繋ぐなど」
「…………ケチッ!」

 ぶぅ、と頬を膨らませて怒られても、こればかりはどうにもならない。……踏み越えてはいけない境界線。けして、けして自分の足で踏み越えることを許されない線が、引かれている。



 ずるいと思う。踏み越えられないと知っている。だから、“その言葉”を待つのだ。


「じゃあ、“めーれい”! オレと手、繋いで!」
「畏まりました」


 踏み越えるための許可証の言霊を、貴方が齎してくれるのを待ってしまうのだ。



 遠慮がちに差しだされた手をぎゅっと握りしめて、ルアは素直じゃないよと拗ねて、満面の笑みを浮かべる。素直ですよと言ったら、素直じゃない、と返される。いっつもこうなんだから、と……一瞬浮かべられた複雑な色の表情を、ユウセイが見ることは叶わなかった。


 えーいえーいえいっ! と握った手を振りながら城へと歩いて帰っていく。少々振り回されながら、ユウセイもルアの歩調に合わせて歩く。いつもはちょっと後ろを歩くから……並んで歩けることは彼にとって……彼等にとって、とても幸せなこと。


「きょーぉのごはんはなーにっかなぁ〜♪」
「その前に、教育係の話が待ってますよ」
「げっ! ね、ねえユウセイ。い、一緒に怒られてくれない?」
「……一緒にいるだけなら、かまいませんが」

 自分はもう、散々叱られましたから。そう苦笑するユウセイに、ルアは不思議そうに首を傾げたのだった。


 手を繋いで歩く二人の長い長い影は、ゆっくりと溶けるように、東から来る闇へと同化していったのであった。


―END―
パラレル楽しい。本当に楽しい。需要なんて考えてたらアップなんて出来ないもんね(ちょっと涙)
しかしこれは遊龍亞というより遊―→←…(?)龍亞っぽい。おらの遊龍亞って最初はいつも遊→龍亞から始まってるね。いいよね受け大好きな攻めって(それは当たり前のことなんじゃry)
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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