やろうと思えば、出来るものだ。

 期待せずにはいられない。だけど肩肘張りすぎないで、

 気軽に。とにかく、楽しむことを考えようよ。






ドライブ、デート、するー!





 始まりは、テレビに流れたハンバーガーショップのCMから。


「季節限定のたまてり、食べてみたいなぁ。あ、でもハピーセットのおもちゃも欲しいー!」
「もう龍亞。そんなに食べきれないでしょ」
「でも気になるじゃんかー」

 遊星達の家でそのCMを見ていた龍亞と龍可の会話を、D・ホイールの整備をしていた遊星が聞いていて、そして家にそのバーガーショップのクーポンがチラシで入っていた事を思い出した。


「……クロウ。確かこの辺にマジックナルドのチラシがなかったか」
「ん? あ、わりぃ遊星いったか? 仕事途中に寄るのに丁度いいと思ってよ。何枚か使っちまったよ」
「……まだ残ってるか」
「ああ。オレはもう利用したからさ、使いたいなら全部使っちまっていいから」
「すまない」
「いいっていいって。お前もたまには羽伸ばせよな」

 どうやらそのハンバーガーショップの名前はマジックナルドというらしい。ブルーアイズマウンテンを飲みまくるジャックに渡すという考えは鼻からないクロウから、遊星はそのチラシを受け取った。そしてそのチラシの中にたまてりのクーポンがあるのを確認し、よし、と頷く。


「龍亞。……明日、暇か」
「うん。別に予定とかはないけど、どうしたの?」
「……その……これ」
「あ! たまてり!」
「暇なら、明日食べに行かないか……二人で」
「え、いいの!? うわぁすっげー楽しみ! 行く行く!!」
「二人までだから……龍可には、内緒だぞ」
「うんうん! うわぁなんかこれデートみたいだね」
「! ・・・ああ、俺も、楽しみにしている」

 デート。二人っきりで、デート。……分かっているつもりで誘ったものの龍亞の口からその言葉を聞いて……遊星はもう一回気付かれない様に、期待に胸を弾ませた。







 翌日。約束通り一人で家を出てきた龍亞を拾い、遊星の赤いD・ホイールはお目当てのマジックナルドに向けゆっくりと走っていた。いくら龍亞がもっと飛ばそうよー! と言っても、遊星は普段よりもずーっと丁寧な運転をすることを譲らなかった。初めての二人乗りに対する龍亞への安全を意識しているのか、それとも初めてのツーリングデートを一分でも長く楽しみたかったのか……真相は遊星のみぞ知るところだ。


「着いたぞ。龍亞」
「うん!」

 店内に入り、カウンターに手を置いて背伸びするようにメニューを見ている龍亞の横で、遊星は店員にたまてりのクーポンを見せて注文をする。


「たまてりふたt」
「オレハピーセット!!」
「……たまてり一つと、ハピーセット一つ」
「ハピーセットの御飲み物はいかがいたしますか?」
「何がいい」
「シェイク! チョコ!」
「それで」
「遊星セットじゃなくていいの? お腹すかない?」
「……じゃあ、こっちのたまてりさくらも単品で一つ追加する」
「ありがとうございます。店内でお召し上がりでしょうか」
「いや。持ち帰りで」
「え!? ここで食べないの?」
「今日は天気がいい。外で食べよう。……持ち帰りで頼む」
「かしこまりました!」

 店員のスマイルを受けながら会計を済ませ、商品を受け取った二人は店の外へと出る。そして収納スペースに入れておいたショルダーバックに紙袋を入れて龍亞に持たせ、またD・ホイールに跨る。


「バランス、悪くないか」
「うん。ねぇ、一体何処で食べるの?」
「すぐに着く。……少し飛ばすから、しっかりつかまっていろ」
「! うん!!」

 嬉しそうな声と共にぎゅっと腰にしがみ付いてくる龍亞にサティスファ……とても満足を覚えながら、遊星は来た時よりもだいぶ速いスピードで公道をアクセラレーションするのであった。







「いっただっきまーす!!」

 丘の上にある見晴らしのいい公園で、龍亞の元気な声が響く。
 もうお昼時。ここで遊んでいた子供達も家に帰っているのだろう。食事をするのにはとてもいいお昼スポットだと思うのだが住宅街の先にあるからか人気はまばらで、奥の方のベンチ辺り等は入口から一番遠い事もあり、もう二人っきりと言っても過言ではなかった。……修理屋として出張した帰りに見つけたこの公園は、今日の遊星にとって最高のデートスポットだったと言える。

 そんな彼と共に一番奥のベンチに並んで座り、袋から取り出したハピーセットのハンバーガーに嬉々として齧り付きシェイクを啜る姿といったら可愛くて可愛くて可愛らしくて、とっても、元気いっぱいだ。


「すっごいや遊星! シェイク全然溶けてない!」
「そうか」

 素っ気ない返事だが、浮かべている柔らかい瞳が彼の感情を伝えてくれる。うん! とまた嬉しそうに笑う龍亞を見ながら、遊星もたまてりへと齧り付く。


「……美味いな」
「ホント? ねぇねぇ、どんな味?」
「てりやきと卵の味だ」
「そりゃそうだけどさー」

 元々、遊星の食事のペースは早い。だから龍亞が文句ありげに頬を膨らませている間も、もっしゅもっしゅと手の中のたまてりは口の中へと消えていく。


「ね、ねぇ遊星。それ、一口ちょうだい」
「ああ……次のもたまてりだが」
「たまてりさくらも欲しいけど、普通のたまてりも食べてみたいの!」

 オレもポテトかシェイクちょっとあげる! 交換ね! ね? とおねだりしてくる龍亞の可愛い事ったら……キリがない。


「……分かった。あと少しだから、全部食べるといい」
「ありがとう! いっただっきまーす!」
「ああ……・・・!?」

 てっきり、受け取ってから食べると思っていたのだが。包みごと渡した遊星の手に顔を近付けながら、あーんと大きく口を開けて、残っていたたまてりを一口で食べきった。少し驚いた顔のまま動かなくなる遊星に、たまてりおいしーvと顔をほころばせたまま龍亞は照れるように笑う。


「いっつもこうして食べると龍可に行儀が悪いって怒られちゃうんだけどさ。中々直んないんだよね」
「……そ、うか」
「遊星も直した方がいいと思う?」
「……いや……そ、そう、だな」
「え? どっち?」
「ん……その、俺の前では構わないが」


 ……俺以外の奴には、するな。視線があさっての方向を向いてしまう遊星に、キョトンとする龍亞の顔もまた少し赤くなる。でも龍亞のそれは、恥ずかしいから止めてほしいの赤ではなくて……恥ずかしいけど、嬉しいの赤だ。



「ゆーぅせ。ポテトとシェイク。どっちがいい?」
「……シェイク」
「遊星顔熱そうだもんね」
「……」
「あー! Sサイズなんだから思いっきり吸っちゃ駄目!!」
「……結構、いけるな」
「もぉ〜あんまり残ってないじゃん。たまてりさくらいっぱい頂戴ね!!」
「ああ。……先に食べるか」
「いいの? おっきい一口で食べちゃうよ?」
「構わない……手で、食べるか?」

 そう、取り出したたまてりさくらを包みごと差し出してくる遊星に、龍亞は笑って、包みの中のたまてりさくらに齧り付く。なんとなく予想していたのだろう。遊星も先程の様に驚く様子はなく、龍亞が食べやすいよう包みの高さを微調整した。そのまま二口、三口と齧り、満足そうな顔で咀嚼し、ごくんと呑み込む。


「えへへ。なんか遊星の手から食べたら余計においしい気がする」
「…………龍亞……さっきも言ったが、本当に俺以外の奴にはするなよ」
「分かってるってー。オレだって相手は選びますー」
「大丈夫そうだと思っても俺以外は選ぶんじゃないぞ」
「遊星は心配性だなー。ポテトあげるから機嫌直してよ」
「別に、機嫌が悪くなった訳じゃ・・・」

 むしろ、機嫌なら上がって行く一方だ。幸せすぎて戸惑う位には、おおいにサティスファクション真っ最中だ。むしろこれ以上があるのかどうかも分からない位には……と、思っていた遊星に、また更なるハッピーが押し寄せてくる。



「はい遊星。あーん♪」
「……ぇ」


 じゅうっとシェイクを飲みきり、小さな紙袋に入っているポテトの内最後の二本を遊星の口の前に持ち上げて、調子良さそうな龍亞の笑顔。……遊星の手の中のたまてりさくらが、ぐじゃ! と歪な形になる。本日の遊星の機嫌上昇、青天井也。



「あれー? どしたの遊星いらないのー? ほら、あーん♪」
「……」
「って、うひゃ!」

 空いていた手で持ち上げられた龍亞の手をガシっと掴みポテトを食べた後……指に付いていた食塩も丁寧にしゃぶり、龍亞が顔を真っ赤にして硬直すると解放し、何食わぬ顔で残りのたまてりさくらをまた食べ始める。


「……って! ちょ、ちょっと! いきなり何するのさっ!」
「俺はお前のあーんに応じただけだ」
「応じすぎでしょ! ってあぁ違うそうじゃなくて……何で舐めちゃうかな!!」
「お前の手から食べたら、塩だけでもより美味いな」
「っ……/// も、もー!! 何で今それを言うかなぁ〜!?」

 真っ赤な顔のまま文句を言い続ける龍亞に、たまてりさくらを完食し公園に入る前に設置されていた自販機で購入したココアを飲んでいた遊星は、ふと何かに気付いた様に……聞いてるー!? とぷんすかし続けている龍亞の顔へ、唇へと視線を注ぐ。


「龍亞。口の横にソースが付いている」
「って、え?」
「さっき齧り付いた時に付いたんだろう」
「え? 嘘」

 ぺろ、ぺろ、と角度を変えながら付いたソースを探す様に舐める龍亞に……遊星の唇が、不敵に笑う。



「ほら。ここだ」
「ん、ん!? ちょ、ゆ、んんっ!」

 唇の横をぺろりと舐めそのまま唇を重ねてくる遊星に、龍亞の頭の中が色々とバーン……いや、ブレイクしていく。様々な感情が表に出る事が出来ずぶつかり合って爆発と破裂を繰り返し真っ白になりながら……徐々に深まっていく口付けに、うるさい位胸をドキドキさせられていく。


「ん……ぷはっ」
「甘いな」
「ん、もぉ……誰かに見られたら、どうするのさ」

 キスから解放され、熱い息と共にふいっと顔を逸らす龍亞だが……真っ赤な顔で何を言っても、龍亞を溺愛しているこの男には意味がない。ただどこまでも、可愛いだけだ。


「そうだな。……そろそろ、出た方がいいだろう」
「……」
「……だが」
「え?」

 たしかゴミ箱があったから、持ち帰らなくても平気だろう。ベンチの下などに落ちてしまった紙ごみをすべて袋に入れてねじった後、遊星は残っていたココアを飲みきって、立ち上がる。そして龍亞に、優しく手を差し伸べる。


「まだ、そのまま帰るには日が高い。……だろ?」
「!! ぅ、うん!」

 遊星の言葉に、寂しそうに曇っていた龍亞の顔がぱぁっと晴れる。言葉に出さず、心の中だけで思っていた事がぴったりシンクロしていた事が嬉しくて、遊星の手をぎゅっと握って立ち上がる。


「ねー遊星。これからどこ行く?」
「そうだな。……とりあえず、行きとは違う道を走るか」
「あ、いいねそれ! 楽しそう!!」
「(それに、続きも最後までしたいしな)……そうだな。楽しみだ」



 楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまうのだから。

 だからもうちょっと、滅多にないこの幸せな時間を引き延ばしてもいい筈だ。


 二人を乗せて疾走り出すD・ホイールのエンジン音はどこかさっきよりも軽快に、どこまでも連れて行くよと言っている様に。行きよりもぎゅっと密着した遊星と龍亞を、春の風と共に包み込むのであった。



―END―
遊星と龍亞のデートする話。元ネタはツイッターで真夜中にたっぷりと呟きまくった妄想から。あぁーハンバーガー食べたい!!(^p^* ) 季節限定バーガーは月見とてりたまが大好きです!!
画像が左にあるので、最後まで読みやすいよう多く改行しています。なのでこの下をスクロールしても何もない。フリじゃない。最初はハンバーガーの画像を探していたのですが……このベンチの素材にビビビっと来たから、とても楽しく書けました。遊星も龍亞も幸せそうに書けて良かったです。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!

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