【雪が降る冬の日】

遊星×龍亞




 白は好きだけど、雪は好きじゃない。

 そんな遊星だから、オレはとっても、冬が好き。








 龍亞の家には龍亞専用のこたつがある。正方形の、小さなこたつ。部屋にはエアコンが付いているけど、毎年寒くなってくると、押し入れからこたつ用布団を取り出してくつろぎたくなる。


 そんな龍亞の元に訪れる珍客も、このこたつが大のお気に入り。


「ゴロゴロゴロゴロ」
「本当に遊星、こたつが好きだね」
 首輪から下をこたつ布団の中にすっぽり埋めて満足そうに喉を鳴らしている猫……遊星に視線を向け、龍亞はみかんの皮をむき始める。


 終業式を終えて学校から帰って来たら、自分の部屋の窓の外でガラスを叩く遊星がいたから招き入れた。親は仕事で出ていて誰もいなかったし、友達も皆用事が入っていたから丁度良かった。

 最近こうやってよく訪れる遊星を招き入れるのが、この冬の日課になってきている。普段遊星は満月と新月の夜以外龍亞の元を訪れることはないのに、何故昼から彼の元を訪れているのか。


 それは彼にとってこたつのぬくもりが龍亞のミルクとはまた別の意味で耐えがたい魅惑を持っているというのもあるのだろうが。


『……雪は、好きじゃない』
「遊星、寒いの苦手だもんね」

 外真っ白だしじゃんじゃん降ってるし。ちょっと意地悪そうに笑う龍亞に、遊星はぷぃ、と視線をそらす。龍亞の言う通り寒いのが苦手な遊星は、寒さの代表的存在である雪が好きではない。


「オレは雪、好きだけどなぁ」
『この間降った時俺を連れ出そうとした位だからな』
「だって今年初めての雪だったんだよ? 一緒に外で遊びたいじゃん」
『遊びたいなら遊んでくるといい。俺はここから見守っておく』
「もぉ〜そんなこという〜」

 真っ白で綺麗じゃーんという龍亞に、遊星は何も言わない。彼自身白い色は好きだから窓の外を眺めるのはいいらしいが、一回雪が降ると中々外へ出ようと、帰ろうとしない。
 龍亞もそれはもう聞いた事があるので、深い意味は込めず言いたいから話している。


「雪が降ったら猫はこたつで丸くなるって、本当なんだね」
『何だそれは』
「歌だよ。学校で習ったんだ」

 犬じゃないから、外には行かないんだよね。遊星へと話しかけながら食べているみかんはもう三個目。ひょっとしなくても退屈になってきてるのだろうか。


『……』
「? 遊星? ぅわっ」

 無言のままこたつの中へ潜ったと思ったら、のそっと自分の股の間から顔を出してくる。


「にゃー」
「ど、どうしたの遊星いきなり」
「にゃ〜ぅ」

 ゴロゴロゴロゴロ。喉を鳴らしながらすりすりと腹に顔を擦り付けてくる遊星を、龍亞は最初こそ驚いたもののすぐにパァアっと笑って構い始める。


「もーどしたのさ〜ゆうせ〜?」
「にゃ〜ぉ」
 こたつから出すのは嫌がるので、自ら仰向けになってこたつの中へと入り撫でたり抱きしめたりしながら甘やかす龍亞は、とんでもなく幸せ者の顔をしている。
 そんな龍亞によるじゃれ付きが、どれ程続けられた頃か。ふぅ、とため息を吐く遊星の顔付きが、猫なのに、一気に人間じみた。


「遊星?」
『……構ってほしいなら、そう言え』

 え? 呆然とする龍亞に対し、仰向けとなっている彼の胸の上に大の字になって寝転がっている遊星は、もう一回ため息を吐く。



『構ってほしいなら、幾らでも相手をしてやる。……こたつで温まったミルクも、また格別だろうしな』
「ぇ……!!」

 遊星の言葉の意味を理解した途端、龍亞の顔がさーっと青くなり、すぐに沸騰したように真っ赤になって湯気を出す。


 もし今遊星が猫でなく人間の姿だったなら。そのまま自分がどうなるか位、嫌と言うほど理解出来て……教え込まれていて……!!


『何なら今から、相手をしてやろうか』
「ぃ、ちょ、ちょっと……あ! おやつ! もうおやつの時間だね!」

 忘れてた! 取りに行かなくちゃ! そう、ごそごそとこたつの中から自分の服の中へと侵入を果たそうとする遊星から間一髪逃げ出した龍亞は、大慌てで部屋を出ていく。追いかけたりはしない。何故なら部屋の外は寒いからだ。本当に遊星はどこまでこたつの魅力に捕えられているのだろう。


「きょ、今日のおやつは苺だよ〜っと」

 ガラスの器に洗った苺を入れて戻って来た龍亞は、こたつから1メートル程離れた場所に体育座りで腰を下ろす。どうやら先程の遊星の言葉に警戒しているようだ。


『寒くないのか』
「お、オレは風の子だからね! それに苺は寒い方がおいしいし〜!」

 エアコンを付けても、床の下まで温まるには時間が掛かる。ぷるぷると足を震わせている龍亞に声を掛けると、やせ我慢の様なちょっと無理した明るい声が返ってくる。こうなったら意地でも動かないだろう。


「…………にゃー」
「え、ゆ、遊せ」

 するり、と遊星がこたつから出たと思ったら、そのまま龍亞の元へと赴き体育座りしている腹の上へと乗っかる。遊星が何をしたいのか分からない龍亞は体を動かせないまま動揺している。


『おい。それをくれ』
「ぇ……それって、苺のこと?」
『そうだ』

 それ、と言う遊星の視線の先にあるのは苺。好きなの? と尋ねたら、美味しかった、と返ってくる。


『昔、友人が宝物だと言って分けてくれたことがある』
「宝物?」
『基本俺もその友人も野良だから、生ゴミの入った袋を漁って見つけたものだ。半分以上腐っていたが、美味しかった』
「腐ってたって、お腹壊さなかったの?」
『俺は妖怪だ。消化器官は人間より遥かに丈夫さ』

 だから、くれ。髭をひょこひょこと動かしながら龍亞の方を見上げ強請ってくる遊星に、そういうことなら、と龍亞も器の中の苺を一つ手に取る。


「はい。どー……」

 どーぞ。そう、手に渡そうとした苺に、遊星がかぷっと齧りつく。ちょっとずつちょっとずつ、かじ、かじ、と食べていく様は……なんとまぁ、可愛らしい事なのだろう。


「な、なんか、癖になっちゃいそう」
『何がだ』
「え、あ、な、なんでもないよ。も、もう一つ食べる?」
『頂こうか』

 やはり、美味いな。満足そうに龍亞の掴む苺へと齧りつく遊星を見ながら、龍亞もまた幸せそうな笑顔を浮かべるのであった。




 冬になると、ぬくもりが恋しくなる。

 そう言って、遊星がいっぱい家に来てくれるから。いつもよりいっぱい、一緒の時間を過ごせるから。


『龍亞。エアコンは切った方がいい』

「そうだね。やっぱりこたつがいいね」


 だからオレは、今までよりもずっと、ずっとずっとずぅっと、

 冬と雪が、好きになったよ。


―END―
アニメの遊星がどうかは知らない。が、猫の遊星は寒いのが好きじゃなくてもいいと思うんだ。苦手でいいと思うんだ。だって猫なんだから。でもって遊星の言っている友人は猫じゃありません。執筆が続けば今後出てくると思います。
遊星の好物、苺。鏡さんに「猫って苺食べるの? 食べても平気?」というメールを送った所「食べても平気だけど程々にね」と教えてもらいました。ありがとう鏡さん。ネットで調べるより的確でした。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


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