【おいなりさんのラブラブ徒然日記】

十代×翔





 藤城稲荷。山の中腹辺りにぽつんと建っている、ちょっと寂れた小さな神社。

 厄除け、家内安全、交通安全、旅の安全のご利益あり。中でも厄除けには強い御利益あり。


 そんな神社には一つだけ、誰に言っても信じられないだろう秘密がありました。







 ボクの名前は、翔。この藤城稲荷に祀られているお稲荷さんです。


『ふわぁあ……今日も誰も来なかったっすねぇ』

 山のふもとに大きな神社があるからとか、この神社に来るためには足腰の鍛錬になる階段を上らなくちゃいけないとか色々と理由があるからか、この神社は自慢じゃないけど人が滅多に来ません。本当に自慢にならないけど、最後に参拝客を見たのはいつだっただろうって位来ません。だから本当なら本殿にいなくちゃいけないんだけど、鳥居の上に座って空を眺めつつ移ろう自然を感じるのがボクの日課となっています。


『……そろそろ日が暮れるっすね』
 遠くから聞こえた五時を告げる音楽を聴きとったボクは、鳥居から降りた後神社を取り囲む木々へと登り神主を探します。妖力を広げればすぐ見つかるけど、退屈凌ぎになるからあえて足を使って探すんだ。


 木々を渡りながら神社を見下ろすと、燈籠や本殿の傍に落ちる葉を箒で掃いている巫女達がよく見える。建物の中で掃除している子、買い出しに行っている子も数えれば、全部で十二人。皆神主の事が好きで、にぃやとか、おにいたまとか、にぃにぃとか、おにいちゃんとか、色んな呼称で神主に仕えている。


『みーつけた』
 ボクに気が付いた巫女達から色んな言伝を預かりながら、しめ縄を巻かれた立派な神木にもたれかかる様にして寝ている神主を見つけたボクは、本殿の屋根を伝って彼の元へと着地する。お昼寝というには太陽はかなり傾いてしまっているけれど、風邪をひいたりしないのだろうか。


『アニキ。アニキ起きて。もう日が暮れちゃうよ』
 鼻先をふんふんと当てながら、神主……アニキを起こそうとする。だけどこの程度では、アニキは起きてはくれない。尻尾でくすぐりにかかっても、くすぐったそうに身を捩るだけで起きようとしない。

『あーにーきー……もぉ。仕方ないなぁ』
 ボクはアニキから一歩離れるとその場でくるりと空中回転し、人間へと化けて再び起こしにかかる。


「アニキ、こらアニキ起きなさいっ!」
「んー……あ、翔。おはよぉ」
「もう日が暮れるから、今ならこんばんはだと思うっす。てゆーか毎回言ってるけど、もうちょっと神主としての自覚を持ってほしいっす」

 普通、神主は狩衣と呼ばれる着物を着ているのが一般的。アニキみたいに黒の長袖ポロシャツにジーンズなんて今すぐ街に繰り出せるお兄ちゃんみたいな恰好はしていない、筈だ。ボクはアニキ以外の神主はこの神社の前担当しか知らないけど、彼はいつも、参拝客がいなかろうが狩衣を着ていたんだから。てゆーか見る人によってはアニキの事を神主として見えないどころか、この神社にたむろしている不良にだって見えちゃうかもしれない。


「んぇ? もぉそんな時間なのかぁ。ふぁあ……よく寝たなぁ」
「お昼寝するなら部屋で寝ればいいじゃない。わざわざ御神木の下じゃなくても寝れるでしょ」
「だぁってさー、外で寝ると風が気持ちいいんだぜ。それにほら、もうじき咲きそうだからさ」

 そう、寝ころんだまま神木の隣にある藤の花を見上げながらアニキは笑う。確かにそろそろ花を咲かすだろうなとは思うけど。


「……別に今から観察しなくてもいいんじゃない?」
「ま、のんびり昼寝したいってこと」
「充分寝たじゃない」
「細かい事は気にするなって」

 のんきな口調でボクと話をしているアニキはくぁーっと伸びをした後立ち上がり、それで? と聞き返してくる。


「もうご飯出来たのか?」
「まだっす。参翔(みとび)がまだ買い出しから帰ってきてないんす。お米しか炊けてないって七翔(ななかけ)が困ってたっす」
「お風呂は?」
「五翔(ごしょう)がさっき掃除し終わったって言ってたっす。あ、壱翔(ひとび)達も、本殿とかのお掃除終わったって」
「そっか。なら先に風呂入るか。お前も一緒に入る?」
「遠慮するっす」
「えーいいじゃん別にー。一緒にはいろーぜー」
「ご飯の前に疲れるのは嫌っす!」
「あれ。オレ疲れさせることするなんて言ってないぜ? 翔ってば実は期待してるとか?」
「っ……こ、この、バカアニキっ」

 アニキの意地悪な笑顔に、ボクは頬が熱くなるのを感じる。ボクとアニキは神社の神主と御神体ってだけじゃなくて、世間の人間達で言う恋人同士。人と妖怪という種族の違いはあるけど、アニキは全然気にせずボクの事を想ってくれて、ボクもそんなアニキをずっと想っている。

 アニキはここに住み込みで働いているから毎日一緒で、恋人同士だから当然夜とかも結構お盛ん……こ、こん! と、とにかく、ボク等はお互いの存在を求め合う事はけして少なくないし、ていうかほぼ毎日……こんこん! よ、ようするに、アニキは体力と煩悩がありすぎるんだよ!


「そんな可愛い顔で睨むなよ。まぁ翔が嫌なら、一人で入るしさ」
「ぼ、ボクは疲れるのが嫌なだけで……えっと、その……」
 アニキは、ずるい。ボクがどれだけアニキの事を好きか、分かってない。分かってるつもりで、ボクの気持ちを引き出そうとする。


「疲れるのが嫌なだけで?」
「ぼ、ボクだって、アニキと一緒に『ただ今戻りましたー!』」
 勇気を出して言おうとしたボクの言葉は、鳥居の方から聞こえてきた声に綺麗に被さる。巫女服ではなく私服を着た参翔が、両手いっぱいにレジ袋を抱えて帰って来たのだ。

『翔様、(あに)さま、遅くなりました』
「おかえり。えらい時間かかってたみたいだな」
『四時からタイムサービスがあって、おばさん達の荒波にもまれながらお目当ての品をゲットしてました!』
 その後レジが行列になって、袋に詰め終えたらこんな時間になってしまいました。参翔の話を聞き終えたアニキは、そっかそっかと頭を撫で撫でしている。ボクはと言えば、なんとかアニキの意地悪から逃れられたのでほっと息を漏らす。……けど、

『兄さまは、今日もお昼寝ですか?』
「あぁ。そろそろ藤が咲きそうだから、花見してぇなって翔と話してた。で、今日風呂一緒に入らねぇ? って」
「み、参翔。七翔が待ってるっすよ!」
『あ! いけない! すぐに行かなくちゃ。えっと翔様と兄さまは』
「先に風呂に入ってるよ」
『畏まりました。急がなくっちゃ。兄さま、もう少しこのままの姿でお願いします』
「ん、いいぜ」
『ありがとうございます!』


 急がなくっちゃー、と走っていく参翔の後姿を見つめながら、ボクは重いため息を吐く。どうした? と顔を覗いてくるアニキに、少し頬を膨らませてみせる。


「やきもちか?」
「……そんなんじゃないっす」
「しょーうv オレが好きなのはお前だけだぞv」
「そんなの、見れば分かるっす。分かるから困ってるんだよ」


 さっきも言った通り、この神社には十二人の巫女達がいて、神主であるアニキに仕えています。だけど、ボクを含めこの神社にいる人間は、アニキ一人だけ。巫女達は皆、陰陽師としての才能もあるアニキが作りだした式神達なんです。
 そしてアニキの作った式神は……性別は女だけど、人間の外見的な意味で、大小様々なボクの姿をしています。アニキは作りだした後でも大きさを変えることが出来るから、たとえばさっきの参翔は普段人間で言う“ちゅーがくせい”位なんだけど、今日は時々この神社に参拝に来る“なんとかだいがくにうかりたいじゅけんせい”の人達位に成長しています。でもってそんな結構高度なテクニックを何でもないことの様にやってみせるアニキは、召喚した式神に、数字とボクの名前である“翔”を合わせて名付けます。


 ボクをモチーフにした外見に、ボクの字を入れた名前の式神達。正直、ほんと正直でストレートすぎて困惑してしまうのに、


 アニキがボクの事を考えてくれていると嬉しくなってしまうボクは、バカなんだろうなと思うんです。


「翔?」
「アニキ、お風呂入りに行こうよ」
「誘ってんの?」
「ち、違うよ! ただ今日は暑かったしさっぱりしたいし」
「ふぅ〜ん?」
「っ、も、もう、じゃあ先に入るからね! 出てくるまでは待っててよ!?」
「え、ちょ、おーい!」


 ぽん、と変身を解いたボクは紅くなった顔を隠すようにしながら走る。それを後ろからちょっと駆け足でアニキが追いかけてくる。


「おーい翔、意地悪言ったのは謝るから、一緒に入ろうぜー」
『知らない知らなーい! アニキなんて知らなーい!』
「そんな固ぇこと言わずにさ、尻尾も綺麗に洗ってやるぞー」
『毎日毛繕いしてるから平気っす!』
「あぁ、この間人間の姿で毛繕いしてるの見た時は、なんかクるものがあったぜ」
『こ、この、エッチ、バカァアア!!』

 アニキなんて知らなーい!! 全速力で走るボクの後ろをさっきよりスピードを上げたアニキがまったく距離を離さず追いかけてくる。……アニキは本当に人間なのかとちょっと疑いたくなりながら、

 今日もまた最後には、ボクはアニキに絆されちゃうのでありました。




 山の中腹辺りにぽつんと建っている、藤城稲荷というちょっと寂れた小さな神社には、


 『藤城稲荷の神主と御神体の狐は、超ラブラブの恋人同士』


 という、誰に言っても信じられないだろう、一つの秘密がありました。



―END―
以前ピク支部にて8菜様に見せていただいた素敵な狐翔たん+陰陽師アニキが忘れられず、その絵を思い出しながら蟹猫シリーズで書いてみました。彼女の考えている素敵設定とは全然違ってると思いますが、おらなりに、楽しく書かせていただきました。8菜様ありがとぉーうございます!!
そしてここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!!

5D'sNOVELTOP

ちなみにこの神社、残念ながら縁結びの御利益はまったくありません。アニキも翔君もお互いラブラブで年中イチャコラパラダイスしているので、他者の縁まで結んでる時間はないのです。駄目駄目じゃないか! 厄除け以外の御利益の内容は奥様眼鏡、アニメの5D’s、GXからイメージして付けてみました。

そして↓はロクに設定決めないまま考えてみた、アニキの召喚する式神達の名前一覧です。


壱翔(ひとび)  弐翔(にしょう)  参翔(みとび)  四翔(よしょび)  五翔(ごしょう)  六翔(ろくとび)

七翔(ななかけ)  八翔(やとぶ)  九翔(ここのかけ)  拾翔(とうび)  拾壱翔(といとび)  拾弐翔(とふしょう)


炊事洗濯掃除に御使い、ご主人様(アニキ)の為に毎日せっせと働くいい子達です。とうび以降の表記がややこしくなってるのは普通に十翔って入力して滾って困るから、ちょっとカッコつけ方を間違えた為です。(今なんか本音が聞こえたような)
その気になればもっと召喚出来ますが、基本は十二体までです。レパートリーが尽きたのか十三体目以降の呼び名を決めていない為、アニキの翔ラブなプライドが許さないのです。でも十二体いればハーレム出来るよなうわ何をするやめあqwsでrftgひゅじこlp;@:(通信が遮断されました)

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